第9章 祈り /sect.10





 古代は加藤をはじめとするコスモタイガー隊とともに無事にヤマトに帰還していた。コスモタイガー隊の全員が緑からのテレパシー通信を受信し、各自がガス弾を発射したため、都市帝国の滑走路は完全にヤマト側が制圧することとなった。そのため、滑走路内で破壊されたコスモタイガーはわずかに二機ですんだのである。
 先に古代機をかばって被弾した山本機は無事に帰還し、回収艇で出撃した根岸も、なんとか生きてヤマトに戻っていた。無傷で第一艦橋に戻った古代を見て、雪は驚喜した。…しかし、古代は沈鬱な表情で都市帝国をじっと見つめていた。
(真田さん…斉藤……)
 その時、第一艦橋に真田の声が響いた。
「ヤマト。こちら真田だ。対消滅装置が届いたので、今から四分後に対消滅を起こす。大至急都市帝国から10宇宙キロ以上離れてくれ。転送で脱出するから救助を頼む。転送先はポイントA600だ。青の発信器をつけている。以上だ」
 古代の頬に涙が流れた。第一艦橋を歓声が満たす。
「さすが真田さんだ!」
「だれが届けたんだろう?」
 喧噪の中、島はヤマトを反転させ、全速力で都市帝国から遠ざかった。古代が叫ぶ。
「救命艇の発進準備!真田技師長を救助に向かう」
 その時、ヤマトの後方で、巨大な閃光が広がった。純白のその光は、超新星の爆発にも似たすさまじい勢いで、ヤマトと地球を照らしながら広がっていく。第一艦橋はまぶしい光に満たされた。一同は声もなくその光を見つめていた。



 閃光に続いて暗黒が周囲を包む。…真田は緑を抱きかかえたまま、宇宙空間を漂っていた。緑は完全に意識を失っており、こうして抱いていても呼吸や鼓動を感じることはできない。しかし、心臓に直接損傷を受けているおそれがある中で心臓マッサージをすることはできず、宇宙空間では人工呼吸もできなかった。
(古代、早く来てくれ……!)
 血が出るほど唇をかみしめ、真田はヤマトの救助艇を待った。
 いまあらためて見ると、緑の隊員服は、緑自身の肩からの出血だけでなく、何者かの血で全体が赤黒く変色している。そのおびただしい量は、二回の爆発によって工作室で何が起きたのかを物語っていた。失われていった命と、いま、砂時計の砂が落ちるように目の前で失われていくかけがえのない命に、真田の心は押しつぶされそうだった。真田は必死に祈り続けた。

 その時、突然周囲を金色の光が包んだ。…都市帝国の対消滅の光はずいぶん前に薄れている。真田は周囲を見回した。振り返った真田は、そこに、全身から光を放ちながら浮遊するテレサを見た。


《ありがとう、真田さん。…あなたにお会いして、私は自分のほんとうの姿を知ることができました》
 真田は茫然とテレサを見つめていた。
《あなたは私を信じてはいなかったけれど、命をかけて白色彗星を倒してくださいましたね。そのおかげで、私…いえ、私たちは解き放たれ、母なる宇宙へ還ることができます。ありがとうございました》
 真田は心の中で叫んだ。
(テレサ、あなたが超能力を持つ精神生命体なら、どうか私の願いを聞いてください)
《そのかたのことですね》
 テレサは緑を見て微笑んだ。
《そのかたの心は、ずっと前から私に届いていました。…自分はどうなってもかまわないから、どうかあなたを助けてほしい、と祈り続けていたのです。…あなたがいま祈っているのと同じように》
(テレサ!)
《残念ですが、私にはあなたが思っているほどの力はありません。…でも、あなたがたがしてくださったことは忘れません。その感謝の気持ちだけでも受け取ってください》
 そう言うと、テレサは両手をさしのべた。テレサの体から降り注ぐまぶしい光がいっそう強くなり、真田と緑を包んで輝く。絶対零度の宇宙空間に、暖かさが広がった。
 …やがてテレサはさしのべていた手を降ろすと向きを変えた。
《さようなら。もうお会いすることはないでしょう。あなたがたのその素晴らしい力を、これからもどうか宇宙の平和のために使ってください》
 そう言うと、テレサは微笑み、輝きながら急速に遠ざかっていった。その方向に、ヤマトの救命艇のへッドライトが見える。

 真田は腕の中の緑に目を落とした。緑はヘルメットの中で静かに目を閉じている。
 真田は目を閉じ、ヘルメットを重ねるとつぶやいた。
「緑、うちに帰ろう。…これからはずっといっしょにいるからな」
 二人が抱き合って漂う宇宙の底に、青い地球が小さくきらめいていた。




                      完
ぴよ
2010年06月03日(木) 00時18分22秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
大変お待たせいたしました。最終話をお届けします。

このように長いお話を最後までお読みいただいて,ほんとうにありがとうございました。
心から御礼申し上げます。

別にあとがきを書かせていただきましたので,よろしければどうぞそちらもご覧いただけましたら幸いです。

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No.1  メカニック  ■2010-06-03 15:01  ID:dPqLtHYdQoc
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大きな…大きな代償だった。斉藤、古賀、青木、新米…。ヤマトは勝ったぞ!!宇宙の平和は守られた!!

激しかった戦いも終わり、やっと二人に安らぎの時が訪れましたね。
真田さん、緑、ぴよさんありがとう!
総レス数 1

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