第8章 復讐者 /sect.3



 第一艦橋では小ワープ待機に入っていた。雪はデスラー艦との距離を読み上げている。その時、ビデオパネル中央に捕捉されていたデスラー艦の映像の背後を、長く尾を引く青白い物体が通過した。古代が叫ぶ。
「拡大投影しろ!」
 それは始めて見る白色彗星の本体だった。…白色彗星は、この地点でなぜか通常空間に戻っていたのである。
「デスラーが…彗星帝国の…」
 島の言葉に一同は肅然となった。ここで突然ヤマトを襲ってきたこととの関連を考えても、現在デスラーが彗星帝国と関係を持っていることは明らかだと思われた。
「デスラー艦まで、あと1.7宇宙キロ」
「ワープ10秒前…5、4、3、2、1、ワープ」
 島のカウントダウンでヤマトはワープし、ほとんどワープインと同時にワープアウトしてデスラー艦に突っ込んだ。ヤマトの右舷がデスラー艦の側面構造物をなぎ倒していく。古代は乗り込み命令を出すと、自分も第一艦橋を駆け出していった。真田はスキャナを放出させ、インターコムに向かって言った。
「スキャナ展開、精細モードで敵の動力炉を探知する」
 その時、雪が突然立ち上がった。
「艦長、敵艦に移乗して負傷者の救護に当たります。よろしいですか」
 土方がうなずくのを見ると雪は身をひるがえした。


 乗り込み部隊は、デスラー艦の上甲板で、敵の迎撃部隊の激しい銃火にさらされていた。精細スキャン画像は、敵兵ひとりひとりの動きまで正確に再現している。画面を切り替えながら艦内の構造を探査していた真田は、敵兵の動きに奇妙な同時性があることに気づいた。前進、後退、銃の上げ下ろしまで、まるで判で押したかのように、3人ずつが正確に同じ動作をしている。
(こいつら、アンドロイドなのか…?)
「緑、一時的に敵兵に絞って最大出力で集中スキャンしてみろ」
 インターコムに言う。すぐに画像の中央に数名の敵兵が映し出される。やがて透過光線の強度が上がり、敵兵の体内構造が見えた。そこには機械類がびっしりと詰まっていた。



「古代、聞こえるか。あの兵士たちは人間じゃない。アンドロイドだ」
 ビームを避けながら甲板上を必死に走っていた古代は、真田の声に立ち止まった。精神波通信装置は、敵艦の中であっても、まるですぐ横で直接真田の言葉を聞いているかのようなリアルさで音声を伝えてくる。
「あの兵士の動きには一定のリズムがある。どこかにコントロール機構があるはずだ。探知するから、俺の誘導に従って爆破してくれ」
「了解!」
 古代はマシンガンを抱えると走り出した。

 真田はスキャンモードを元の精細設定に戻させると、目をこらしてスキャン画像を精査し、アンドロイド用のコントロール装置らしきものが艦の中央にあるのを発見した。艦内の通路網を視線でたどりながら古代に指示を出す。
「右へ回れ」
 古代を示す光点は、真田の指示どおり動き、着実に制御室へ向かって進んでいく。
「今度は左だ。左へ直進」
 やがて、古代の光点は目標位置の直前まで到達した。
「そこだ!」
 15秒後、スキャン画像に現れていたコントロール装置が消滅した。
「やった!」
 真田の傍らで見守っていた太田が声を上げる。デスラー艦上にいたアンドロイド兵たちは、コントロールを失って突然動きを停止し、バラバラと倒れ始めた。


 デスラー艦との戦闘は、それから一時間ほどで終結した。ヤマトに大損害を与えた宇宙駆逐艦群は、小ワープの後、不思議なことに姿を消した。そして、乗り込み部隊にエンジンを爆破されたデスラー艦は活動を停止し、艦内の各所で爆発が連鎖していた。
 しかし、戦闘終了後、ヤマトに帰還した古代は、腹部に貫通銃創を受けた雪を抱きかかえていた。雪は古代をかばって代わりに撃たれたのである。


 土方は、古代がデスラー艦での顛末について報告するのを聞いていた。
「…それで、デスラーはどうしたのかね」
「雪が撃たれるのを見たデスラーはこう言いました。「お前の恋人か、許せ、古代」と。そしてこうも言いました。「彗星帝国に身を寄せ、屈辱の日々に甘んじていたとはいえ、私の心ははるかに君たちに近い。ヤマトなら戦う方法はいくらでもあるはずだ。白色彗星の渦の中心核を狙え。この戦闘、ヤマトが勝つ」…そう言った後、デスラーは脱出口に飛び降りて緊急脱出用小型艇で去っていったんです」
「デスラーの言ったことは、真実だと思うか」
「雪は、負傷していたデスラーを救護しようとして近づいた時に、隠れていた敵兵に撃たれました。…あの誇り高いデスラーが、わざと嘘を教えるような卑劣なまねをするとは思えません」
「そうか。……渦の中心核については真田くんに調査してもらうことにする。それで、雪の容態はどうなんだ」
「……さきほど医務室に搬送したばかりですので、まだ」
「きみたちは婚約しているんだろう。補修が終わるまではいずれにしてもヤマトはここから動けない。いいから医務室に行ってきたまえ」
「ありがとうございます、艦長!」
 古代は艦長室を駆け出していった。土方は溜息をついた。壊滅的打撃を受けたヤマトを補修してふたたび戦闘可能な状態に戻し、白色彗星よりも先に地球に戻らねばならない。そのためにはかなり無理なワープを続ける必要があった。しかし、ヤマトはデスラーとの戦闘で大量の重傷者を出している。無理にワープを重ねれば、重傷者は間違いなくその負荷に耐えきれず死亡すると思われた。
(真田くん、一分一秒でも早く修理を頼むぞ…)
ぴよ
2010年05月16日(日) 17時37分50秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。デスラー戦後半,sect.3をお届けします。

大ガミラスは不滅なのだよ…というわけで,今般,総統閣下は無事脱出されましたが,原作どおり撃たれた雪ちゃんの容態とか予後については次回以降でお届けさせていただく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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No.2  Alice  ■2010-05-29 11:22  ID:6ChW.ZWEJzk
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「私の心は、はるかに君たちに近い」というデスラーの名セリフ、散々ヤマトを痛めつけておいて、いけしゃあしゃあとよく言えるな…と思うのは私だけでしょうか?
この後、病室でユキが「帰りたい…、あなたと2人だけのお家で…」と訴えるわけですが、これは出航前に緑が言った「2人だけで過ごす何気ない時間が大切」という言葉がベースにあるのかもしれませんね。
No.1  メカニック  ■2010-05-18 08:29  ID:AtHRGSqYRU2
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早速スキャナが役に立ちましたね。
土方艦長の優しさ、苦悩が感じられる最後のくだりでした。
総レス数 2

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