第8章 復讐者 /sect.1



 ヤマトはテレザートを発進し、全速力で地球を目指した。再度計測した結果、白色彗星は速度を上げており、テレサの予言どおりあと20日前後で地球に到達することが判明した。土方はワープ回数を増加させることとし、ヤマトは1000光年のワープを一日3回、8時間置きに実施しながら帰途についた。
 真田はテレサの情報から白色彗星のガス帯の中に大要塞があると推測し、敵艦スキャナの対要塞版の製造に着手した。スキャナ本体のサイズを大きくして長距離の移動に耐えられるようにし、透過光線の強度も増加させるかわり、表面構造をステルス性のものにして、撃破される可能性を極力低減させる。敵要塞がどれほど巨大なものか想像もつかない状況ではあったが、ロスも考慮して必要な個数を確保するため、大量のスキャナが製造、備蓄された。スキャナから送信されてくる情報も、リスク分散を考えて第一艦橋と第三艦橋の双方で受信、配信が可能なよう艦体を改造する。技術班員たちは、スキャナの製造と艦の改造に奔走していた。…一方、設計室では、瞬間物質移送機の開発が曲がり角を迎えていた。


「ワープエンジンが自艦の艦体を別次元に移送するのと同じ作用を、離れた位置で実施するというだけの筈なんだ。なのに、物体同士が結合されていないとうまくいかないというのは一体どういうことなんだよ」
 青木は腕を組んで天井を仰ぐ。コンピュータ上のシミュレーションはもう何百回となく実施していたが、全く思うように作用してくれない。設計室での勤務時間はなしくずしに長くなり、全員が過労でふらふらしていた。
「…あのガスの中にでっかい人工の帝国がある、って話だよな。それで、波動砲を使ってもガスすら除去できそうにないとか」
 古賀が疲れた顔で言う。…テレザートから帰還した斉藤は、テレサの話を食堂でだれかれ構わず話しまくったため、テレサの言葉は一言残らず艦内に知れ渡っていた。青木は厳しい顔で宙をにらみながら言った。
「ちくしょう、このまま開発が間に合わなかったら、かわりに俺がコスモタイガーで彗星のど真ん中にワープしてやる。そうすればわざわざ瞬間物質移送機を作らなくたって、彗星の一つや二つ、イチコロのはずだ」
 青木の隣で作業していた緑が顔を上げた。
「青木さん、特攻なんて絶対にしないでくださいね。…それに、艦載機で特攻すること自体が無理かもしれません。実は、ずっと気になっていることがあるんです」
「何だ?」
「技師長は、テレサが精神生命体で、テレザートにあった幽閉器は、別次元にテレサを幽閉するための次元断層装置ではないかとおっしゃっていました。…白色彗星は亜空間航行をするほど進んだ次元移動技術を持っています。対消滅の危険は十分認識しているはずです。そうだとしたら、近接質量警戒装置と次元断層装置を組み合わせて、要塞の周囲にワープバリアを展開している可能性があるのではないでしょうか」
「ワープバリアだって…?」
「はい。亜空間経由で接近する質量を検出して、次元断層でそれを遮断し、外部からワープで侵入されることを防止する装置です。理論上は製造可能です。もしそれを展開されていると、瞬間物質移送機の開発に成功したところで、外部からワープで侵入して対消滅をかける戦術は使用できなくなります」
 青木は唇をかんだ。
「だとしたら、われわれは瞬間物質移送機だけではなく、次元断層の有無をスキャンする装置も一緒に開発しておかないと意味がないということになる」
「はい。それと…」
 緑は一瞬言葉を切ったが、意を決したように言った。
「もし、敵がワープバリアを既に持っているとしたら、瞬間物質移送機や特攻では敵を倒せません。その場合、次元断層の内部に通常空間から侵入して、そこで対消滅を起こすしかないことになります。そのためには、侵入した工作員を帰還させるための小ワープ装置と、敵要塞内部の構造材等の物質をその場ですぐ隣に短距離ワープ移動させて、いわば敵と敵を重ね合わせることにより対消滅を起こす装置を組み合わせたものを開発することが必要です」
「しかし、動力はどうする。敵内部で小ワープを二度も起こすだけの動力を、侵入部隊がかついで行くのは無理だろう」
「敵のエネルギーを吸収して稼働する形態にすればなんとかなると思います。…どちらにしても、侵入部隊がそのまま自爆するしかないような装置は、絶対に開発しませんから」
 その時、緑ははっとして振り向いた。青木も振り向く。そこには真田が立っていた。真田は二人の肩をぽんと叩くと言った。
「ありがとう。いい話を聞かせてもらった。ずっと気になっていたんだが、これでふんぎりがついたよ。…青木、まだ10代の若い身空で特攻なんてするんじゃないぞ」
「技師長…」
 真田は笑った。
「確かに、これまでシミュレートで成功したのは、ワープ前に物体とエンジンが接触していたケースばかりだ。だとすると、緑の言った携帯型の転送装置のほうが、接触前提だけに開発が容易かもしれん。開発担当を3つに分けよう。青木と緑と古賀で携帯型を開発してくれ。大山、花田、石井はワープバリアの検出装置だ。残りの者と俺で従来型の瞬間物質移送機の開発を続けよう。ガス弾はおれがやっておく。いいな」
「わかりました!」
 設計室の全員が立ち上がり、途中まで終了したデータの整理を始める。緑は非番の時間に携帯型の開発を一部進めていたらしく、いきなりコンソール上に途中まで進んだデータを呼び出していた。真田は顔を近づけると小声で言った。
「…これも予感か?」
 緑は黙ってうなずいた。真田は画面を切り替えると装置の制御システムの概要を確認した。
(…よくできている。だが、動力を外部調達する機構の小型化が課題か。…ん?)
 稼働プロセスに関する覚え書きの部分を見ていた真田は、気になる記載を見て手を止めた。
「侵入用、脱出用、破壊用と3種類の小ワープ機能を考えているようだが、宇宙への脱出はともかく、敵基地への侵入に小ワープを使うのは危険すぎないか。要塞や敵艦内部だと大気粒子もあるだろうし、侵入時に構造物と重なったら中途半端な規模で対消滅を起こしてしまうぞ」
「構造物については敵艦スキャナとの連動を考えていました。大気は最大の課題ですが、実体化プロセスでなんとか排除できないか検討中です」
「わかった。その線で開発を急いでくれ」
 真田がそう言った時、艦内オール回線から南部の緊張した声が響いた。
「右舷後部に、敵艦出現!」
 真田は顔色を変えて設計室を駆け出した。その瞬間、被弾による激しい振動と腹の底に響くような爆発音が艦体を震わせる。技師たちはデータを保存し、すぐに全員が設計室から待機ボックスへと向かった。緑は走りながら唇をかみしめていた。
(…こんな大切なことをどうして予知できなかったの?やっぱり自分の意思では左右できないということなの)

ぴよ
2010年05月13日(木) 00時45分02秒 公開
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■作者からのメッセージ
こんばんは。第8章,デスラー戦編をお届けします。

と申しましても,総統閣下のご登場は次回の予定です。総統ご近影も描く…見込みですが,なにぶん通信シーンということで,もれなくメカ満載の第一艦橋がセットでついてきてしまいますので,しばらくお待ちくださいませ。

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No.2  Alice  ■2010-05-29 10:03  ID:6ChW.ZWEJzk
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彗星帝国を倒すには、ただ単純に潜入部隊が強行突破して侵入し動力炉を破壊するだけじゃ、駄目なんですね。確かにあれだけの科学力を誇る、あれだけの規模の要塞、防御システムも二重、三重に備えていると考えるのが妥当でしょう。
来るべき闘いに備え、たった20日で新たな機器を開発・製造してしまうヤマト技術班、ホントにすごすぎる!
大山、花田、石井…、新たなメンバー、覚えとかなきゃ(^.^)
No.1  メカニック  ■2010-05-13 10:51  ID:AtHRGSqYRU2
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緑…悲しまないでくれ!その力でたくさんの危機を乗り越えてきたじゃないか!
近接質量警戒装置、次元断層装置とワープバリア…彗星帝国を守るのはガス帯だけではなかったのですね…。
ついにデスラーの奇襲攻撃が開始されてしまいました。
総レス数 2

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