第7章 上陸 /sect.1





 テレザート到着までの間に、設計室は予定されていた兵器のうち、瞬間物質移送機を除くすべてのアイテムを完成させた。そして、真田と緑が手がけた精神波通信装置も、データや情報を精神波に変換して送信する側の装置がかなり大型で、小型化が困難であるという問題を残してはいるものの、期間内に実用化にこぎつけた。これによって、敵艦や敵要塞の内部といった電波による通信が困難な場所や、通常であれば通信タイムラグが生じるような離れた場所に対してもヤマトの側からリアルタイムに通信を行うことができるようになり、その効用ははかりしれないほど大きいと考えられた。
 土方は真田をわざわざ艦長室に呼んで労をねぎらったが、真田は緑が装置を使用せずにテレパシーを送信できるようになっていることについてだけは口を閉ざしていた。…緑の「心の声」は、今のところ真田しか聞いていなかったため、汎用性に疑問があり、送信機が開発できた以上、作戦面での意義はあまり大きくないと考えられたこと、そして、あまりに特殊な能力を持っていることがわかると他の乗組員から白眼視されるのではないかと危惧したことがその理由であった。


 テレザートへの最後のワープを終了したヤマトは、テレザートの前に立ちはだかる宇宙気流に阻まれ、さらに、テレザート守備隊と思われる白色彗星側の大艦隊による攻撃を受けた。ヤマトにとって、これは白色彗星側との初の戦闘であったが、機関故障を装うという土方の的確な戦闘指揮によって、ヤマト自身は無傷のまま、波動砲で敵艦隊を壊滅させることができた。


「どうですか、真田さん。星の様子はつかめましたか」
 古代が真田の席の後ろに立って尋ねる。真田の周囲には、太田や雪も立っていた。…雪は古代に乗艦を固く止められていたものの、技術班の協力で資材搬入にまぎれて乗艦し、最終的には古代の事後承諾を得て第一艦橋勤務に復活していた。ヤマトは、テレザート守備艦隊を撃破した後、惑星軌道上を周回しながら星についてのデータを収集していたのである。真田は手元のデータを見ながら言った。
「…今までのデータによると、きわめて特殊な内部構造を持った空洞惑星らしい」
「空洞惑星?」
 古代は真田のコンソールに表示された惑星の断面模式図を見た。まるでガミラスのように、地殻が外殻と内殻の二層に分離し、その中間に大きな空洞がある。惑星内部はカルスト地形のようにいたるところが洞窟になっているようだった。その時、島が声を上げた。
「おい、あれを見ろ」
 第一艦橋の窓の外には、テレザートが緑色の大きな球体となって広がっている。そのテレザートに重なるように、乗組員らがこれまで何度も見てきたテレサの裸身が浮かび上がっていた。テレサはいつもと同じ祈りの姿勢をとっている。
(私は…テレサ。テレザートの…テレサ)
 今では聞き慣れたものとなったメッセージは、各自に配布された解読器の効力ではっきりとした言葉として聞き取れる。ヤマトが目標に接近したためか、メッセージはこれまでの警告的なものとは異なり、具体的内容だった。
(私のいるところは、テレザートの重力砦…鍾乳洞の奥。私は、一人…)
 重力砦についてのメッセージが流れるのと同時に、一同の目には、テレザートの地表にぐんぐん近づき、地表の割れ目を縫って奥に侵入し、そこにある特徴的な形をした山のふもとの鍾乳洞の入り口に至るまでの、あたかも飛行艇の操縦席から撮影したかのような映像が見えた。真田はひとりごちた。
(場所まで視覚的に教えてくれるとは、親切なことだな。…これがすべて敵の罠でないという保証はどこにもないわけだが)
 その時、何もないように見えていた地表から、突然迎撃ミサイルが発射された。地表の割れ目から戦闘機隊も発進する。古代は強行突破を進言し、土方も承諾した。ヤマトからコスモタイガーチームが発進する。コスモタイガーは敵戦闘機を次々に撃破し、ヤマトに接近してきた戦闘機も、パルスレーザーの掃射により沈黙していく。ヤマトからのミサイル攻撃によって敵の地上基地も破壊され、活動を停止しつつあった。土方は、藤堂が派遣した陸戦部隊である空間騎兵隊に、軌道上から降下して橋頭堡を確保するよう命じた。空間騎兵たちは、バーニアの付いたバックパックを背負い、手榴弾やバズーカ砲を手に、砲火が飛び交う宇宙空間を降下していく。


 空間騎兵隊が降下してから約1時間後、地下空洞にいた隊長の斉藤から多弾頭砲の要請があった。そのころまでには、地表の敵基地と戦闘機隊はすべて壊滅し、軌道上のヤマトに対する抵抗は全くなくなっていた。空間騎兵隊に持たせておいた大気成分分析装置から自動的に送信されてきたデータは、軌道上から観測したデータと同様、この惑星の大気がやや薄いとはいえ呼吸可能な成分であることを示している。有害な毒ガスやウイルス、バクテリアの危険もなさそうであった。真田は大気成分データにさっと目を通すと、簡易装備用の手袋とブーツに履き替え、ヘルメットを持ってアナライザーとともに格納庫に向かった。上陸用舟艇には、既に設計室で開発した多弾頭砲を積載してある。背後から古代も走ってきた。
 三人がコクピットに乗り込み、古代が操縦して艇を艦載機発進口へと移動させている時、真田の耳元でささやくような声が聞こえた。
(あなた、どうかくれぐれもお気をつけて)
 真田は格納庫を振り返った。そこには発進の補助要員として戦闘機隊のメンバーがいるだけである。…技術班員は、さきほどの戦闘によって破損した箇所を補修するため、戦闘体制で稼働中のはずであった。真田はふっと笑みを浮かべた。
(たぶんおまえには聞こえないと思うが…行ってくるよ)



 降下した空間騎兵隊は、白色彗星側の守備隊が擁する戦車部隊と死闘を繰り広げていた。
古代は空間騎兵の陣地後方に艇を着陸させた。すぐに真田が多弾頭砲の搬出を始める。アナライザーが部品を運搬し、真田はそれを素早く組み立てていった。作業を急ぎ、10分程度で組み立てが終了すると、真田は古代に声をかけた。
「できたぞ、古代」
 多弾頭砲は、15個の砲弾を同時に発射し、それが発射後にさらに細かく分裂して戦車を破壊するよう作られている。古代は組み上がった多弾頭砲の大きさにひゅうっと口笛を吹くと、すぐに照準器に駆け寄った。…荒涼としたテレザートの空洞平原では、敵の戦車部隊と、そのうち1台を乗っ取った斉藤操縦の戦車が激戦を続けている。
「後退しろ、斉藤!」
 古代が無線で叫ぶと、斉藤の戦車が猛スピードでこちらに向かってきた。古代は後方の敵戦車部隊に照準を合わせ、砲を発射した。…発射された砲弾は、上空で数知れない小片に分裂し、金色に輝く雨のように敵戦車に降り注ぎ、その装甲板を貫通した。一瞬の間を置いて戦車が次々に爆発する。一台だけ、敵指揮官のものと思われる旗付きの戦車が被害を免れ、後退していったが、斉藤の戦車が追跡を開始した。
「古代、われわれはテレサの洞窟に行こう」
 真田の言葉にうなずいた古代は、真田とアナライザーとともに再び艇に乗り込んだ。軌道上で見た映像に出てきた山を目指す。山の麓に艇を着陸させると、三人は見覚えのある洞窟に向かった。洞窟は入り口の高さが10メートルほどもある鍾乳洞で、奥は暗くてよく見えない。
「鍾乳洞か…」
 つぶやきながら入ろうとする古代を引き止め、真田は言った。
「注意するんだ、古代。この奥には敵の狙撃兵がいる」
 古代は驚いて振り向いた。
「え、どうしてわかるんですか、真田さん」
「昨日、緑が予知映像で見た。レーザーライフルで撃ってくるらしい。うかつに前に出ると危ないぞ」
 古代は顔をひきしめるとコスモガンを構え、あらためて岩陰を縫うように進み始めた。



鍾乳洞の内部は途中から下り坂となり、やがて細い回廊となった。青白い光が周囲を照らしている。
(さて、そろそろそれらしくなってきたが…)
 真田がそう思った時、突然ビームが天井を灼いた。古代と真田はとっさに身を伏せた。敵の狙撃兵は複数いるらしく、間断なくビームが襲ってくる。古代は敵の状況をしばらくうかがった後、ぱっと躍り出て三人の敵兵を矢継ぎ早に射殺した。真田も二人を倒す。進路を確認し、慎重に坂を降り始めた時、アナライザーの頭部をまたビームが灼いた。真田はふりかえりざまに背後の崖の上にいた敵兵を撃った。叫び声を上げて敵兵がころがり落ちる。テレサのいる「重力砦」にたどりつくまでには、相当な困難が予想された。



 一班の班長である山下は、ヤマトの破損部分の補修が全て終了したことを確認すると、一、二班と設計班を敵戦闘機の残骸の回収に出した。…太陽系外周艦隊の戦場跡は、一方的に地球側が敗戦したため、敵の残骸はほとんど見あたらなかった。しかし、今回は大量の敵戦闘機の残骸が浮遊している。敵の推進装置や装甲について調査するまたとない機会だった。
 ハードスーツを着て回収艇に乗り込んだ青木は、緑に聞こえないよう注意しながら、小声で操縦席にいる古賀に言った。
「パイロットの死体の乗ってるヤツを探そう。今回始めて接触する宇宙人なんだ。敵の身体組成を調べておく必要がある」
 古賀はうえっという顔をしてからうなずいた。その時、緑が振り向いた。
「青木さん、古賀さん。敵兵の死体が手に入れば、敵の中枢神経系に有効なガス成分を特定できると思います。ご気分が悪いでしょうが、敵艦用のガス兵器開発のために必要ですから、ご一緒に探していただけますか」
 青木と古賀は顔を見合わせた。古賀が肩をすくめる。青木は言った。
「今、おれたちも同じことを言ってたところなんだ。よし、なるべく状態のいいのを探そう。…って、なんだかひどい言いぐさだけどな」
 緑は黙ってうなずくと眼下のテレザートをじっとみつめた。真田はいま、あの惑星の洞窟で敵の狙撃兵と戦っている。緑は心の中でそっとつぶやいた。
(…どうか、どうか生きてお戻りください…。わたし、あなたの命を守るために必要だというなら、どんなことだって喜んでやります)
ぴよ
2010年05月11日(火) 00時15分00秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんは。第7章をお送りします。

ゴーランド戦,わずか2行…で恐縮ですが,なにしろ真田さんのめぼしいご活躍が「あれに当たったらひとたまりもないぞ」とのご発言のみのため,恒例(?)のガミラス本土決戦同様の扱いとさせていただきました。あそこは土方さんの最大の見せ場の一つなのですが,ファンの皆様,申し訳ありません。

洞窟に入るとき,入り口付近とか洞窟の中では確かに戦闘班の若い子がいる…ように見えるのですが,戦死した描写もないのにいつのまにかいなくなります(汗)。なんだかよくわからないので,この際,ということで3人だけで攻略させていただきました。

第7章は非常に短くて,次回sect.2で終わります(ただし,テレサの長セリフがありますが…)。どうぞよろしくお願いいたします。

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No.2  Alice  ■2010-05-25 19:56  ID:heaggj750lo
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テレザートを背景に浮かぶテレサの姿やメッセージ、なんとなく誰にでも見えたり聞こえたりするように思っていましたが、よくよく考えると普通の人間には無理ですよね。だからこそアオキスーパーが必要になるわけですが、そんな細部の矛盾にまでしっかりフォローを入れるぴよさんの洞察力に脱帽です。

やっぱり第一艦橋にユキがいると、いい感じですね。
No.1  メカニック  ■2010-05-11 17:39  ID:AtHRGSqYRU2
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緑がテレパシー能力に目覚めてから会話の距離が縮んだ気がします。
(以前は上司部下の感じが強かったように感じましたが、最近は夫婦の感じが強く感じます)
真田さんはメカだけでなく陸上戦、戦闘機パイロットまでなんでもこなせますね。冷静にコスモガンを連射、カッコイイです!
総レス数 2

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