第9章 祈り /sect.8



 カーゴルームで転送装置の設定を終えると、緑は手元の端末を見た。
 赤と青の光点が離れていく。もう時間がなかった。緑は全身全霊をこめて心の中で叫んだ。
(技師長、緑です。転送装置を持って今からその場所にワープします。手榴弾で橋を落としてください。着いたらガス弾を撃ちますから、すぐにヘルメットをつけてください)
 そう言い終わると緑は転送装置のスイッチを入れた。


 
 斉藤が仁王立ちになって敵のビーム攻撃を食い止めている間に、真田は爆弾を動力炉内部に取り付けていた。
 エネルギーラインの流れに沿って効果的に爆破できる位置を選び、一つずつ設置する。
 斉藤が苦しそうな声で言った。
「技師長、慌てず急いで正確に、だ」
 真田は振り向いた。
「もう少しだ。頑張ってくれよ」
 その時、真田の心に緑の声が届いた。真田は目を見開いた。
(生きていたのか…!しかし、転送……ガス弾だと?!)
 信じられないほどの喜びと、この絶体絶命の場所に緑が来るという恐怖が一度に襲いかかる。
 真田は床に置いていたヘルメットをつかみ、腰の手榴弾を引き抜いた。入り口の斉藤にもヘルメットを渡そうとする。
 その時、斉藤がどうと後ろざまに倒れた。斉藤は既に敵のビームで全身を蜂の巣のように貫かれて絶命していたのである。
 橋の向こうから敵兵が激しく射撃しながら駆け寄ってくる。
 真田は大型手榴弾を投げた。手榴弾は橋の中央に落ちて大爆発を起こし、敵兵もろとも橋が崩れ落ちた。
 あたりを覆う爆煙の中で真田がヘルメットをかぶったその時、動力炉の入り口から2メートルほど向こうの空中に緑が突然現れ、落下した。
「緑っ!」
 緑は苦しそうに胸を押さえて床にくずおれたが、すぐに振り向いて右手に持っていたバズーカを撃った。
 大型ガス弾が動力室の2階に激突し、青い煙がすさまじい勢いで充満し始める。50人ほどにまで増えていた2階の敵兵たちがノドをかきむしって倒れた。
 緑はバズーカを捨てて真田のもとに走り、真田の腕と足の被弾跡を見るとすぐに腰のポケットから補修テープを出した。
「傷口からガスが入ります。これを」
 しかし、そう言った直後、緑は背中に大きな装置を背負ったまま前のめりに倒れた。
 2階に残っていた敵兵の最後のビームが緑の左肩を撃ち抜いていた。


ぴよ
2010年05月29日(土) 00時30分38秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんは。sect.8をお届けします。

本当をいうと,斉藤は,技師長といっしょに動力炉本体に駆け込む前の段階で(おれはおまえを実の弟のように…のとき),どうやらヘルメットを脱いでしまっているようです。

ただ,原作自体にも,技師長がどこに持っておられたのかわからないコスモ爆弾をたくさん取り出しておられるとか,探せばいろいろ突っ込みどころはありますので,ヘルメット問題等につきましては見逃していただけましたら幸いです。
(実は,バイザーを上げたまま毒ガス充満の格納庫に戻った古代くんは果たして大丈夫なのか,という問題もありますが…男のカンか,又は加藤くんあたりから通信をもらってバイザーを閉じ,無事に通過していてくれるだろう,と期待しております)。

あと残り2話となりますが,どうぞよろしくお願い申し上げます。

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No.2  Alice  ■2010-06-25 13:22  ID:GJRPD.o9Lw.
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七色星団では大量被ばく、コスモクリーナーを動かした時は仮死状態、心理探査では廃人寸前、α-4の過剰摂取で軽度の脳出血、そして今度はこれ!
緑、技師長の体をいつも心配しているけれど、自分のことも大事にしないと、何かあったら真田さんの受けるダメージはきっと修復不能だよ。
どうか死なないで!
No.1  メカニック  ■2010-05-29 08:16  ID:LMMpoHtVW8U
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隊長…ありがとう……。

真田さんと緑の感動の再会が…神様はなんて残酷な試練を二人に与えるんだ…ゥ
総レス数 2

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