第9章 祈り /sect.7 |
真田は手元の端末を見ながら要塞内部を進んでいた。まだ敵兵侵入の事実が広まっていないのか、途中のエレベーターや通路はほとんど無人で、大きな抵抗はない。現在までのところ、古代と斉藤のほかに戦闘班の星野、空間騎兵の原田が同行していた。 エレベーターを二つ乗り継ぐと、動力室に続くと思われる回廊に出る。回廊の途中に、無人防御装置があり、自動応射マシンガンが一行を襲った。胸を撃たれた星野と原田が相次いで倒れる。古代と真田はマシンガンを破壊し、斉藤が扉を爆破してその奥へと駆け込んだ。 長く暗い通路の先に、明るく輝くホール状の部屋がある。手元の端末は、そこが動力室であることを示していた。真田はつぶやいた。 「ここだ…」 動力室内部は天井の高さが40メートル以上もあろうかという大ホールで、その中央に金色に輝く巨大な動力炉がそびえていた。あちこちからエネルギーラインのパイプが伸び、動力炉自体も照明でまぶしく照らし出されている。こちら側から動力炉までの間は、長さ30メートルはあろうかという橋になっていた。 …その時、ようやく追いついたと思われる警備兵が、動力炉の上層階に現れて散開しはじめた。ビームが周囲を灼き始める。三人はあとずさった。ビームは雨のように降り注いでくる。真田は言った。 「これじゃあ、とてもあそこまでは行けない。…古代、援護してくれ」 「わかった」 真田は古代を見た。…じっと動力炉をにらんでいる古代の顔は若々しい。真田は静かな声で続けた。 「俺たちが向こうへ着いたら、お前は帰れ」 古代は驚いた表情で振り返った。 「なに、バカな!」 「お前は艦長だ。艦に戻って指揮をとれ」 そう言うと真田はじっと古代をみつめた。何かというと「真田さん、どうしましょう」と尋ねてくる古代は、真田にとって、本当の弟のような存在だった。真田の目には、親友の古代守の陽気な顔も見えた。 「真田さん…」 古代は泣きそうだった。真田は古代の肩に手をかけ、言い聞かせるように優しく言った。 「古代、おれはお前を実の弟のように思ってきた。…いいな、立派な艦長になるんだぞ」 古代はただじっと真田をみつめている。真田は微笑むと身をひるがえした。 「行くぞっ」 橋の上へと走り出す。たちまち猛烈なビームが四方から降り注いだ。腕と足にビームが二発命中し、ヘルメットをビームが擦過した。 「真田さん!」 背後で古代が叫ぶ声が聞こえる。呆然としていた古代はわれに返って援護射撃を始めたようだった。 真田は最後の10メートルを必死に走った。動力炉内部の点検口に転がり込む。後から走ってきた斉藤もそれに続いた。斉藤がほっとしたように言う。 「ここまでくりゃあしめたもんだ」 真田はすぐに起きあがり、振り返った。古代はまだ呆然と立ちつくしている。真田は動力炉の入り口に身を隠しながら叫んだ。 「古代、行け!」 古代は動かない。真田はもう一度叫んだ。 「行けーっ!行かんか!」 古代は顔を伏せ、ぱっと身をひるがえして走り出した。 |
ぴよ
2010年05月27日(木) 23時54分37秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 Alice ■2010-06-16 16:35 ID:lmgw82KT0Zk | |||||
「行けー、行かんか!」の場面は、何回見ても泣いちゃいます。ここのBGMも効果的なんですよね。 1枚に様々な思いがぎゅぎゅぎゅぎゅ〜〜〜っと凝縮された素晴らしい挿絵です。 |
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No.1 メカニック ■2010-05-28 10:00 ID:dPqLtHYdQoc | |||||
真田さんの目が僅かに潤んでみえます…。この後は…真田さん!! | |||||
総レス数 2 |
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