第9章 祈り /sect.3 |
第一艦橋の全員が祈るような気持ちで45分間を待ったが、時間を過ぎても地球からの連絡はなかった。予定時間から5分を過ぎた時、彗星が再び移動を開始した。 「島、ワープだ」 土方が短く言う。島はあらかじめ彗星正面に出るようセットしておいたワープ自動装置のスイッチを入れた。古代は既に波動砲発射装置に手をかけて待機している。ヤマトは小ワープに入り、すぐに彗星の正面に出た。古代の両手が震えている。…しかし、波動砲に充填されたエネルギーが120パーセントに達した瞬間、古代はぴたりと動きを止めて波動砲を発射した。通常の波動砲よりも細く、強い輝きを持つ光が矢のように彗星に向かって走る。土方はその結果を見届けることをせず、直ちに左120度回頭をして退避するよう島に命じた。ヤマトは最初は補助エンジンで、やがて波動エネルギーが回復してくるとメインエンジンのパワーにより、確実に彗星から遠ざかる。ヤマトの背後では、彗星が真っ赤な火の玉となって回転していた。…ガス帯は取り払われたのだ。 「ヤッタ、ヤッタ!」 アナライザーが躍り上がっている。第一艦橋を歓声が満たした。古代は雪の席に駆け寄り、手を握った。 「雪、やったよ。おれたちはやったんだ!」 雪は笑顔でうなずきながら涙を流している。 …しかし、その時、後方監視モニターに映っていた彗星に不審な変化が現れた。真っ赤な火球となっていた彗星の外殻が崩壊し、中から5分の1程度の大きさの物体が現れ始めたのである。物体は下部が月のような外観の半球状で、その上に壮麗な照明に照らされたビル群が円錐状に林立した形状であった。 土方は言った。 「全砲門開け。目標都市帝国。砲撃準備、コスモタイガー発進準備。砲撃と同時に攻撃を開始せよ」 「わかりました!」 古代は自席に駆け戻ると命令した。 「コスモタイガー発進準備、ヤマトの左右両舷に従い、攻撃態勢に入れ!」 第一戦闘配置のサイレンが艦内に鳴り響く。真田はインターコムに向かって叫んだ。 「対要塞スキャナ放出、操作は設計班B、Cチームと一班Cの共同で行え。一班A、Bは次元断層の観測と報告。二班から四班は戦闘態勢で補修待機。設計班Aは携帯型転送装置を完成させて至急第一艦橋に届けるように」 真田の命令が聞こえた時、大工作室の組み立てラインでは、青木と古賀と緑が必死に最終組み立て作業を行っていた。古賀はマイクロ部品の組み立てのため、顕微鏡に目をつけ、バーチャルハンドで作業をしている。やがて古賀が顔を上げると言った。 「よし、組み終わったぞ。後は取り出して本体に組み込むだけだ」 青木はうなずいてバーチャル組み立て装置のカバーを開けた。組上がった転送制御用のコア部分の装置を取り出す。その時、突然緑が床に膝をついた。 「緑、どうした!」 青木が叫ぶ。しかし、緑にはその声は聞こえていなかった。 …敵要塞の中と思われる空間に、真田と古代、斉藤がいる。近くには戦闘班員の死体が見える。三人がいる場所は、広大な動力炉スペースへの入口部分のようだったが、入口のむこうからは既に雨のようにビームが撃ち込まれてきている。真田は古代の肩に手をかけ、何かを言い聞かせると、斉藤とともに動力炉に向かって駆けだした。たちまち激しいビームが二人に降り注ぐ。そして真田の脚にビームが命中した。 「いやあああっ!」 床にくずおれたまま、緑は両手で顔を覆って絶叫していた。誰がが両手首をつかむ。はっとしてわれに返ると、目の前に青木がいた。 「予知だな。技師長に何かあったんだな。どうしたらいい」 「すみません、取り乱して。これが絶対に必要だということがわかっただけです。とにかく早く組み上げましょう」 青木は黙ってうなずいた。古賀は本体にパーツを組み込む作業を続けている。青木と緑は古賀に駆け寄った。あと一息で転送装置は組み上がる。 一班からの報告で、都市帝国には次元断層バリアが存在することがわかった。バリアは半球状の下部外殻と、円錐状の都市を覆うように設けられている。スキャナ群は都市帝国に次第に接近し、第一艦橋にデータが届き始めた。…都市帝国の下部外殻の内部は空洞で、どうやら艦載機の発着用ドームになっているらしい。照明に光り輝く上部構造は、地球のメガロポリス同様、住宅や政府施設等の通常の建築物のようで、たいした防御装置は見あたらない。下部外殻と都市部分の中間、ちょうど中央部分は分厚い金属構造物によって占められていた。単なる基礎構造にしては境界面の独立性が高い。 (中に戦艦を仕込んである、という可能性もあるな) 真田は動力炉の位置を懸命に探していた。高エネルギー部分に絞って検索する。 そのころ、ヤマトは都市帝国に接近し、有効射程距離に入った。土方と古代の攻撃開始命令で各砲塔が咆哮する。コスモタイガー隊も都市帝国の上部構造を破壊しようと襲いかかった。 …その時、都市帝国の上部構造と下部構造の境界面に存したベルトのような外周リングが突然回転を始めた。リングから噴射される物質がコスモタイガーの安定を失わせ、そこに機銃が撃ち込まれる。物質はチャフのような性質があるのか、ヤマトが発射したミサイルも、噴射物に当たってことごとく途中で破裂した。やがて、外周リングから巨大なミサイルが次々とヤマトめがけて発射された。その初弾二発が相次いでヤマトの艦底部を直撃した。 「よし、これで完成だ!」 古賀が言う。緑は転送装置を持ち上げて抱きかかえた。女性でもなんとか背負うことができそうである。 「早く第一艦橋にお届けしないと…」 その瞬間、すさまじい爆発が大工作室を襲った。緑は装置を胸に抱えたまま吹き飛んだ。隔壁に頭をうちつけて倒れる。爆風と炎がいったん殺到したが、倒れていたために炎の直撃は避けられた。体を回転させて装置におおいかぶさり、装置が破損しないようにかばう。自動で非常シャッターが降りたのか、空気の流出は止まりつつあるようだった。緑は周囲を見回した。 緑の足元に、ぐにゃりとゆがみ、粉々に割れた古賀の眼鏡が落ちている。…しかし、古賀の姿はどこにもなかった。3メートルほど先、艦尾側のAブロックとの間を閉鎖した非常シャッターの手前に、白い乗組員用の靴が片方だけ転がっている。緑は喉元まで突き上げてきた悲鳴を抑え込んだ。 (そんな…) その時、崩壊した自動組み立てラインの残骸の陰から青木が身を起こした。膝に手をついて起きあがろうとしている。 「青木さん…!」 声をかけると青木ははっとして倒れている緑を見た。一気に立ち上がり、駆け寄ろうとする。 「大工作室、被弾!」 太田の報告に真田は蒼白になった。艦内監視モニターで工作室を見る。 …艦尾側のAブロックは完全に壊滅し、真空になっていた。艦首側のBブロックには組み立てラインがあったが、モニターに映っているのは破壊されつくしたラインだけである。 その時、真田の目の前でミサイルの第二弾がBブロックに着弾した。オレンジ色の炎が画面を埋め尽くしたかと思うとモニターが真っ白になり、映像が途絶した。真田はインターコムに向かって叫んだ。 「大工作室、被害状況を報告せよ。…青木、古賀、緑!無事かっ?」 インターコムからは全く何の応答もなく、ただノイズが聞こえるだけだった。 (緑…!生きていたら返事してくれ!) 真田は椅子のひじかけを握りしめると必死に念じた。しかし、何の答えもない。真田は心の中で絶叫した。 |
ぴよ
2010年05月22日(土) 19時26分51秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 Alice ■2010-06-04 00:08 ID:dIgSnKZzEuE | |||||
せっかく携帯型転送装置が完成したのに、なんてこと!古賀君はAブロックに取り残されちゃったんですね。真空状態なら彼はもう…。 Bブロックもあのでっかいミサイルの直撃を受けたなら、緑と青木だって絶対絶命。どうか死なないで、2人とも。 余談ですが、彗星帝国の形態はガス体に守られているとしても、航行には不向きなんじゃないかなと思いますが、どうなんでしょう、大帝閣下。 |
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No.1 メカニック ■2010-05-22 21:25 ID:dPqLtHYdQoc | |||||
ヤ、ヤマトが…!! 古賀くんはどうなったんだ!! 真田さんは緑の予知通りになってしまうのか!? 地球はどうなってしまうんだ〜!!! | |||||
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