第9章 祈り /sect.2 |
第一艦橋のメインスクリーンには、藤堂が大写しになっていた。 「白色彗星の前衛艦隊が太陽系惑星に全面攻撃をかけてきた」 藤堂はいつものように無表情だったが、その声には苦衷の色があった。土方は言った。 「長官、先頃ご報告した渦の中心核については、そちらから観測できましたか」 「いや。まだ調査中だ。…こちらでは全地球艦隊が集結中だが、ヤマトも急いでくれたまえ」 「わかりました。全速力で地球へ戻ります」 「頼むぞ。地球はヤマトを待っているのだ」 藤堂がそう言うと、通信は切れた。土方は真田に言った。 「真田くん、渦の中心核はどうだ」 「まだ確認できていません。白色彗星は18時間前から通常空間に戻って、現在は冥王星軌道付近にいますが、高圧ガス帯の動きが激しいためにどこが中心か特定できない状況です」 真田の答えに土方は眉をひそめた。 「ううむ…全地球艦隊といえば、アンドロメダを含め戦艦22隻、巡洋艦25隻に駆逐艦を加えた大艦隊だ。波動砲は大型駆逐艦にも装備されているし、それだけの波動砲で一度に射撃すれば、ガス帯は解除できると思いたいが」 真田はその言葉を聞きながら憂慮していた。 (…あれが拡散波動砲でなければ効果があると確信できるんだが…。拡散波動砲は、本来、艦隊戦で敵の艦船を効率的に撃破するための榴散弾のような兵器だ。徹甲弾のように敵を貫通する能力はない。中心核を狙え、というデスラーの言葉は、ウイークポイントを叩かない限り効果はないという意味ではないのか) ヤマトが太陽系に戻るまでの間に、地球艦隊と白色彗星の前衛艦隊の戦闘は終了していた。地球艦隊は拡散波動砲の斉射により、白色彗星の艦隊のほとんどを一瞬にして葬ったのである。しかし、白色彗星は、速度を変えずに進撃を続けていた。 最終ワープを終え、土星軌道付近にワープアウトしたヤマトからは、地球艦隊がマルチ隊形をとり、2列に並んで白色彗星を待ち受けているのが確認できた。今からあの艦隊に加わろうとしても間に合わない。その時、地球艦隊は一斉に波動砲を発射した。数十本の波動エネルギーが束になり、正視できないほど強い光芒を放ちながら白色彗星に殺到する。そのすさまじい輝きを、第一艦橋のスタッフは声もなく見守っていた。しかし、波動エネルギーの束は、彗星のわずかに手前で分裂し、四方八方から彗星を取り囲むような形でガス体に衝突した。分裂した波動エネルギーは威力を減殺され、彗星の重力波とガス体によってはねのけられていく。 …やがて彗星は元のままの姿を現した。地球艦隊は反転を試みたが、彗星の重力波に捕らえられ、艦体を崩れさせながら彗星に吸い込まれていく。全員が呆然としてその光景を見つめていた。 「全滅だ…」 「あれだけの波動砲が役に立たないとは…」 真田はスクリーンを覆うばかりに広がった白色彗星をにらみながらつぶやいた。 「アンドロメダの波動砲にはヤマトより強力な増幅装置がついていたはずだ。それさえも通用しなかったとなると、波動砲のエネルギーを逆に集約して、彗星の弱点に撃ち込むしかない。しかし、どこだ…どこにあるんだ、デスラーの言った中心核というのは」 白色彗星は何事もなかったかのように地球へ向けて驀進を続けていた。この速度ではあと数時間で地球に到達してしまう。 真田は設計室を呼び出したが、誰もいないらしく、応答する者はなかった。しかし、大工作室に切り替えるとすぐに古賀が出た。 「どうだ、古賀。携帯型は完成したか」 「さきほど、製造ラインで部品の製造を開始しました。手作業の組み立てを入れてもあと2時間で必ず完成させます」 「ありがとう。急いでくれ」 艦内チェックモニターには、古賀の背後に製造ラインで操作をする緑と青木が映っている。 (どうしてもガス帯が撤去できない場合、地球を守るためには、無理を承知でヤマト本体でワープした後、次元断層を中和して強制的にワープアウトして彗星に飛び込み、対消滅するしかないかもしれん。…しかしヤマトほどの質量で対消滅をすると、地球そのものを巻き込んでしまうおそれがある) 真田は暗い表情でコンソールのモニターを見た。ガス帯撤去の成否と次元断層の有無がヤマトと地球の命運を分ける。 白色彗星は地球軌道に近い宙域に到達すると、突然停止した。そして、彗星の中から戦艦と巡洋艦が発進し、地球に降下した。すべての艦艇を失った地球連邦政府はなすすべもなく敵の上陸を許すしかなかった。 戦艦が着陸すると、艦長と思われる緑色の肌をした宇宙人から地球連邦政府に対して通信が入った。宇宙人は大帝星ガトランティス大帝ズオーダーの命によると前置きした上で、降伏か死かを地球時間一時間以内に回答せよ、一時間以内に回答がなければ実力行使すると迫った。地球連邦政府の大統領や閣僚はこの勧告を受けた後、続々と閣議のために本部ビルに入っていったが、藤堂はその中に含まれていなかった。そのことからしても、連邦の中枢が出す結論は明らかなように思われた。本部ビルの前には不安に駆られた住民が集まり、口々に抗議を始めた。 真田は白色彗星が停止したことを知ると、直ちに地球防衛軍本部の観測室に命じて観測画像を送信させた。送信された画像を解析すると、彗星の中央右寄りに、回転するガス帯の回転軸となる部分がはっきりと浮かび上がった。真田はコンソールに解析図を表示して土方に報告した。古代、島らが駆け寄ってくる。真田は古代に中心核を指し示した。 「これが、渦の中心核だ。デスラーが教えてくれた、白色彗星のウイークポイントだ」 「彗星が止まってくれたおかげで、やっとつかめたというわけか」 古代が言う。南部が真田を見た。 「そこに、波動砲を撃ち込むわけですね」 「そうだ。それもエネルギーを集約して、最大出力の波動砲を」 「だが、そのためには白色彗星の真っ正面に出ないと」 島の問いかけに、古代は即座に答えた。 「ワープだ。ワープしよう」 その時、第一艦橋のドアが開く音がした。一同が振り向くと、そこには隊員服を着た雪がいた。雪はゆっくりと歩み寄ってくる。古代が駆け寄り、手を握る。 「雪…!大丈夫なのか、こんなところに来ていて」 雪はにっこりと笑った。 「あの機械に長い間入らせてもらったおかげで、すっかり良くなったの。もう大丈夫よ。みなさん、ご心配をおかけしてすみません」 古代の顔が喜びに輝いた。彗星の弱点が判明したこととあいまって、第一艦橋の雰囲気が見違えるように明るくなる。古代はインターコムに向かって叫んだ。 「総員、ワープ準備!」 真田は自分のコンソールで波動砲の射出制御装置をエネルギー集約モードに切替えた。彗星帝国が一時間という期限を切って地球に降伏勧告をしたことは、さっき藤堂から連絡を受けて全員が認識している。 (地球連邦政府が降伏を選択した場合は、おれたちが戦うことは不可能になるが…。いずれにしてもあと45分で結論が出る。とにかくまずガス帯の撤去が第一だ) 真田はモニター上の彗星をじっと見つめていた。 |
ぴよ
2010年05月21日(金) 01時00分17秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 Alice ■2010-06-03 23:52 ID:dIgSnKZzEuE | |||||
地球の全艦隊が一瞬にして全滅、その経済的損失は天文学的数字なんだろうなぁ…、そもそも防衛軍の財源ってどうなってるんだろう、各国の負担金割合は…なんて、日本国の首相交代劇を見ながら、ふと思いました(^^ゞ ユキが元気になってなによりです。やっぱり第一艦橋には彼女がいなくちゃ! |
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No.1 メカニック ■2010-05-21 15:10 ID:dPqLtHYdQoc | |||||
最終局面が近づいてきました。雪の回復により古代くんをはじめみんなの士気も上がりいよいよ決戦に向けての準備万端となってきました。 古代くんの笑顔と二人を見る真田さんの微笑みがいいですね。 |
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