第8章 復讐者 /sect.2 |
宇宙駆逐艦はヤマトの後方から突然出現して片舷斉射をかけ、追い越した後また旋回して斉射するという運動を繰り返していた。全く敵の出現を予期していなかったヤマトは、なすすべもなく被弾していく。敵駆逐艦は、いずこからともなく次々に出現を続け、その数を増やしていた。真田が第一艦橋に到着したときには、破損箇所を示すアラートがヤマトの艦体図のいたるところを赤く染め、爆発音と振動が絶え間なく艦橋を揺らしていた。古代は当直中にレーダーを担当していた太田に確認したが、事前にレーダーには一切反応がなかったとの答えだった。反撃の手を打てずにいるうちに、四隻目の敵駆逐艦が出現した。敵艦はヤマトを包囲して猛攻をかけている。 「第一砲塔、損傷!」 「第二砲塔、損傷!」 「ミサイル発射口損傷!」 「右舷魚雷発射口損傷!」 次々と飛び込んでくる損害報告に、古代は呆然としていた。雪がレーダーを確認しながら言う。 「レーダーには、何も映りませんでした」 手元の艦外監視モニターで4隻目の敵駆逐艦の出現を現認した真田は、敵がワープアウト後、エネルギー回復のためのタイムラグなしに主砲を斉射するのを見て、うめくように言った。 「瞬間物質移送機……」 その言葉に、艦橋じゅうのスタッフが顔色を変えた。 「まさか」 「デスラー戦法か?」 「馬鹿な…デスラーはとっくに死んだはずじゃないか!」 その間にも損害報告は続いている。 「艦載機発進口、損傷!」 「第三砲塔損傷」 「ヤマトの全砲塔、使用不能!」 下部の第二艦橋からも激しい破裂音が響いてくる。古代が立ち上がり、蒼白な顔で言った。 「デスラー…これはデスラーだ。やつは生きていたんだ」 その時、突然中央のビデオパネルに反応があり、不気味な笑い声が第一艦橋に響いた。 「ひさしぶりだね、ヤマトの諸君」 スクリーンには金髪で青い肌の男…ガミラスの総統、デスラーの顔が大写しになっていた。 「また会えて光栄の至りだよ」 艦橋に設置された大型の精神波解読装置の効果なのか、デスラーの言葉の意味はそのまま頭に入ってくる。 「デスラー総統、生きていたのか!」 古代が叫ぶ。スクリーンのデスラーはにやりと笑った。 「大ガミラスは永遠だ。わがガミラスの栄光は不滅なのだよ。ヤマトの諸君、気の毒だが間もなく諸君には死んでもらうことになるだろう。ヤマトの健闘を祈る」 そう言うと、デスラーは高笑いして通信を切った。 「これよりヤマトは小ワープでデスラー艦に接舷する。戦闘班、空間騎兵はワープ終了後直ちに右舷舷門と甲板から敵艦に乗り込み、敵艦のエンジンを破壊せよ」 古代の命令が艦内オールで響く。続いて技術班オール回線から真田の声が命じた。 「ワープ終了後、敵艦スキャナ放出。スキャナ操作と中央コンピュータ室は設計班が担当せよ。補修は一班が第一砲塔、二班が第二砲塔、三班が第三砲塔、四班が艦載機発進口だ。攻撃機能回復を最優先に作業しろ」 吉川は待機ボックスで新米にハードスーツを着せている最中だった。手早くウエストのファスナーを閉めてやると、レーザーカッターを二つ手に取って一つを手渡す。爆発音と振動は絶え間なく続いていた。 「大丈夫だ。教えたとおりにやればいい。第一砲塔の損傷は回路が中心であまりひどくないようだから安心しろ。おれから離れるなよ」 新米は真っ青な顔で震えていたが、黙ってうなずいた。吉川は新米の肩を叩いてやると、艦内通路に出た。第一砲塔の破損箇所は内部から修復可能な位置にある。 Cデッキの左舷側通路を走っていた時、吉川の目の前が突然真っ赤になった。爆風で吹き飛ばされる。顔を上げると前方の隔壁が破損し、熱風とともに炎が通路に充満しつつあった。航海班の岩本と古田が血だるまになって倒れている。吉川は非常用シャッターの位置をとっさに確認し、二人に駆け寄ってシャッターの手前に引きずり込むと壁のレバーを引いた。瞬時に天井から閉鎖シャッターが降りる。古田は爆発の際に全身に鉄片を浴び、無数の傷を負っていた。岩本は右足を大腿部から吹き飛ばされ、動脈血が噴出している。通路は血の海だった。吉川は持っていた補修用のコードで岩本の右大腿部を縛って止血した。ハードスーツのバックパックを外してその場に置くと、岩本の腕をつかんで背中に担ぎ上げる。 (新米のやつ、大丈夫だったのか) 思い出して振り返ると、新米は床にはいつくばって震えていた。吉川は怒鳴りつけた。 「新米、仲間が死にそうな時に腰を抜かしてるやつがあるかっ!医務室に連れて行くのを手伝え!」 新米は慌てて駆け寄り、古田の腕を自分の首に回して立ち上がり、半ばひきずるように背負って歩き出した。吉川は歩きながら言った。 「いいか、艦内で爆発があったら、損害部分に仲間がいないか確認して、救出してから非常シャッターを降ろすんだ。向こうに仲間がいるのに慌ててシャッターを降ろしたりするんじゃないぞ。重傷者はすぐ止血してから医務室に運んで、もし空いていたらすぐ医療機械に入れろ。使用中なら佐渡先生に引き渡せ。誰もいなかったら、認識票を見て輸血するぐらいのことは自分でしてやるんだ。いいな、覚えたか」 新米はうなずいたが、恐怖のあまりぼろぼろ泣きながら歩いていた。 (ここで甘やかすとこいつは駄目になる) 吉川はもう一度怒鳴った。 「新米、しゃきっとしろ!人の命がかかってるんだぞ!怪我人が痛くないようにちゃんと背負ってやれ」 「はっ、はい。すみません」 新米は必死に古田を背負い直した。吉川は言った。 「この血の海が戦場だ。おれたちだっていつこうなるかわからん。かっこいい幻想は早く捨てるんだ」 |
ぴよ
2010年05月15日(土) 17時23分55秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 Alice ■2010-05-29 10:19 ID:6ChW.ZWEJzk | |||||
戦艦の乗組員は医療の訓練も受けているんですね。激しい闘いを繰り広げるわけですから、臨機応変に何でもできないといけないのは分かりますが、血管確保して輸血するなんて、パニック状態の現場ではなかなか難しいことだと思います。きっと訓練生同士で、何度も練習したんでしょうね。(きっと腕は穴だらけで紫色に…(^^ゞ) 新米を叱咤する吉川の姿に、土門に闘いの現実を教えるユキがかぶります。 |
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No.1 メカニック ■2010-05-16 10:08 ID:AtHRGSqYRU2 | |||||
デスラー艦突入への第一艦橋での緊張したやりとりの影に吉川くんたちの別の戦いがあるのですね…。 吉川くん自身も相当ショックがあると思いますが、新米くんを一喝して奮い立たせる…すごいです。 |
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