第6章 テレザートへ /sect.1 |
1年ぶりのワープは無事に終了した。ワープ終了後、真田は直ちに艦体各部の点検に回り、異常がないことを確認して第一艦橋に戻ったが、当直に当たっていた太田は、すぐに艦長室に来るようにとの土方からの伝言を伝えた。 「真田志郎、入ります」 「入れ」 艦長室のドアが開く。土方はデスクに座って何かのデータを確認していたが、顔を上げて椅子を指さした。 「真田くん、まあ座りたまえ」 勧められるままにデスク前の椅子に腰掛ける。土方はいきなり切り出した。 「今回ヤマト発進を決めたのはきみだと思うが、そういう理解でいいのか」 「はい」 土方の意図がわからないまま、真田は短く答えた。 「うむ。…長官から艦長就任を依頼された時、きみが防衛会議に提出したという資料は全部送ってもらった。しかし、まさかあの資料だけで発進を決めたわけではあるまい。どうだ」 真田は一瞬躊躇したが、すぐに答えた。 「はい。…艦長は宇宙戦士訓練学校23期卒業の藤井緑をご存じですか」 「私の教え子だ。というより、いまは君の奥さんだろう」 「はい。彼女には予知能力があります。発進前、彼女は、予知映像として、目撃されていた不審機と同形の機体を含む大艦隊が白色彗星から発進するところと、同様の艦隊が地球防衛軍の主力艦を攻撃して破壊するところを見ていました。その報告を受けて、白色彗星が敵性異星人であり、地球攻撃の意図があると判断しました」 土方は長く息を吐いた後、天井をあおいだ。土方の目には全滅した太陽系外周艦隊が見えているのかもしれなかった。 「…その情報を私自身がもっと早く聞くことができていたら、と思わずにはいられないな」 「申し訳ありません。ただ、現在は私の妻ですし、防衛会議にそのような情報を提出しても到底信用されないのではと考えましたので」 土方は真田を見た。指を組み合わせる。 「信じる者と信じない者がいるからな。…藤井の予知能力について最初に当局に報告したのは私なんだよ。訓練学校で発生した爆発事故の直後だがね。確かに当時の司令部は一笑に付して全くとりあげようとはしなかった」 土方は手元の航海日誌に目を落とした。 「沖田艦長のログも読ませてもらったが、彼女はイスカンダルへの航海でも再三重要な予知をしているようだね」 「はい」 「今後、彼女が何かを見た、と言うことがあったら、遠慮せずにすぐ私に報告してくれたまえ。いいな」 「わかりました」 土方は真田の顔を見た後、椅子を回してデスク上のモニターを見た。 「ところで、君はヤマトに副長が必要だとは思わんかね」 突然の質問に、真田が問い返すように土方の顔を見ると、土方は苦笑しながら言った。 「いや、実際に艦長になってみて驚いたんだが、ヤマトというのは実に変わった人員構成の艦だな。私がこれまで指揮してきた艦とは全然違う。これを贅沢な人員配置というべきか、指揮系統がめちゃめちゃだというべきか迷っていてね」 真田はうなずいた。 「おっしゃるとおりです。ただ、現在の乗組員は、ごく一部の新規参加者を除いて、ほぼ全員がガミラスとの戦闘を何度も経験したベテランです。現状の配置のまま、従来通り任務を遂行するよう命じたほうが、むしろ有効に戦闘力を発揮できるのではと考えますが」 土方は真田に向き直り、身を乗り出して言った。 「うむ、では、君はどうなんだ。副長として私の下で艦の統率をとるのと、今のまま技師長として勤務するのと、どちらがより艦のためになると考えるかね。長官は、私がまだヤマトに不慣れだろうから、きみを副長にしてはどうかという意見だったんだ」 真田は即座に答えた。 「技師長のまま据え置いていただければと思います。…戦闘後の補修指揮や、兵器開発など、現場で指揮すべき作業が多数あります。そちらに全力を傾注できなくなりますと、ヤマトの戦闘力の維持、管理に支障を来すおそれがありますので」 土方はうなずいた。手元のデータに目を落とす。 「沖田艦長も同じ意見だったようだな。…君に艦長代理を任せたいが、そんなことをするとヤマトの補修や新兵器開発に問題が生じる、だから別の人間を起用する、とね。…わかった。司令部にはそう報告しておくよ」 「ありがとうございます」 土方は航海日誌を見ながら言った。 「きみが以前、沖田艦長に報告した「外部誘導型マイクロ波動エンジン搭載戦闘機」というのは、どういうものかね。もう開発はできたのか。…沖田艦長は「外部誘導装置の完成に期待する」と書いているが」 真田の脳裏に、この同じ部屋で沖田と交わした会話がよみがえる。真田はその思い出に伴う感情を抑えながら、事務的に報告した。 「マイクロ波動エンジン搭載の戦闘機自体は開発済みで、コスモタイガーとして今回実戦投入されています。外部誘導機構は未開発ですが、各機体を外部誘導するのではなく、一括して瞬間的に物質を移送するシステムを現在研究開発中です」 「それはどういう点で有効なのかね」 「敵艦や敵要塞等を殲滅する手段として、敵と同一位置に、ワープで物体を出現させるという方法があります。これを行いますと、重なりあった部分に存在した双方の質量が、一瞬で全てエネルギーに変換されます。発生するエネルギーは光速の2乗に質量を乗じたものですから、移送した物質の質量にもよりますが、波動砲など比較にならないほどのすさまじい破壊力を発揮します」 「対消滅、というやつだな。…確か、物質と反物質が接触した時にも同じ現象が起こるのではないか」 「そうです。ただ、反物質はまだこの世界では発見されていません。それに比べると、敵と同位置にワープアウトする戦術は、はるかに容易に行えます。しかし、人が操縦する艦艇でこの戦術をとりますと、操縦者は必ず死亡してしまいます。…沖田艦長は、部下を見殺しにすることは許さない、神風特攻はするな、とおっしゃって、外部誘導型の操縦装置を開発して搭載するよう命令されました。そのご指示をもう一歩進めて、ガミラスの技術を参考に、戦闘機ではなく、例えば大質量の岩塊等を敵上にワープアウトさせることもできるよう、物質移送装置を研究することにしたものです」 「……」 土方は腕を組んで目を閉じた。 「なるほど、よくわかった。完成すればおそろしい威力を持つ兵器となるわけだな。これからも開発に邁進してくれたまえ。技術班内部のことは人事を含めすべて君に任せる」 そう言うと、土方は目を開き、にっと笑った。 「いや、君がここに二人いてくれないのが実に残念だな。…副長はあきらめるが、新しい乗組員についての人事簿を作るところまではやってくれるか。考課表が旧乗組員の分しかなくてね。全員を把握できず、困っているんだ。君は乗組員名簿を持っているんだろう」 「はい。すぐに考課表の形に整えてお届けします」 「うむ。やはり君が持っていたか。…それでは、反乱の発起人として心配しているだろうから、地球でのその後の情勢を伝えておくよ。ヤマトが発進した後、反逆だとして月基地に迎撃命令を出したのは総参謀長だそうだ。政治的にいろいろあったようだが、結局、政府は、白色彗星と戦う準備はできていた、ヤマト廃艦や迎撃命令はすべて総参謀長が政府高官との縁故を笠に着て長官を無視して独走したためだ、ということにして、総参謀長を罷免して片をつけたらしい。だから、コスモタイガーが月基地から脱走して全機ヤマトに合流したのも、すべて長官と政府の秘密命令によるということになっているそうだ。彼らの処遇についても安心したまえ」 真田は最後の情報を聞いて、思わず顔がほころぶのを抑えられなかった。 「ありがとうございます、艦長!いまの情報を乗組員全員に伝達してもよろしいですか」 土方は大きくうなずいた。 「ああ。士気も上がるだろう。よろしく頼む」 |
ぴよ
2010年05月05日(水) 00時02分10秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 Alice ■2010-05-21 10:18 ID:ZcWG01oTM2I | |||||
沖田艦長も本音は真田さんに艦長代理をさせたかった…、君は艦長代理の代理だったんだね、古代君(T_T) でもここまでも、指揮をとってきたのは表向きは古代でも、実質的にヤマトを動かしてきたのは真田さん、陰の艦長、または裏艦長と呼ばせてもらいます。 土方さんと真田さんの大人の会話、渋くてしびれます。 |
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No.2 ヨッシ! ■2010-05-08 20:28 ID:ov6RKaAr3rc | |||||
こんにちは、ぴよさん^^。いつも楽しく拝読させていただいております^^。まとまったところで、感想を!、と思ってたのですが、今回は、ちょうどオジサンの話でしたので^^。 自分も40歳を大分越えてきてから、こういう静かながらも重大なことを話す、そして共感や共通の気持ちやら信念を1つにする、というプロセスに非常に感動するようになりました^^。派手なドンパチシーンでも感動はするのですが、こういうシーンにも感動やら、ワクワク感を覚えられるようになり、今回のお話も、い〜〜〜ですねぇ^o^。これからもよろしくお願いします^^。 それから瞬間物質移送爆弾・・・今後どこで威力を発揮するのか、楽しみにしております^^。 |
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No.1 メカニック ■2010-05-05 22:21 ID:LMMpoHtVW8U | |||||
土方さんも緑の予知能力は知っていたのですね。確かに緑は古代くんや島くんと同期ですから面識はあったとおもいますが、 予知能力を素直に認めるあたりに土方さんの器の大きさ、寛容さを感じます。 真田さんは人望があり副長や艦長代理になれる人物ではありますが、やはり現場で陣頭指揮をとるのが本人や周りのためにもいいと思います。 ヤマトVでも副長になりましたが、実質的に技師長でしたし。 |
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