第5章 敵影 /sect.6 |
「古代、発信源がわかったぞ」 第一艦橋に入り、スクリーンにテレザートの位置に関する模式図を映し出してから真田は言った。古代や島が駆け寄ってくる。 「いいか、これが地球。ここがヤマトの現在位置だ。ここから15万宇宙キロ、白色彗星の左へ20度、3次元立体天球儀上の2万78ブロック、銀河系のはずれにある星が発信源だ。ヤマトの速度では到着までに30日かかる。地球まで往復60日だ」 「60日…」 「そうだ。白色彗星は速度を変えなければあと約65日で地球に到達する。つまり、発信源の星に行って調査をするとしたら、ぎりぎりの日数しかないことになる」 古代は顔を上げた。 「真田さん、時間がないなら、発信源の星に行かず、直接白色彗星を調査してはどうでしょうか」 真田は眉をひそめた。 「それなんだが、最大の問題は白色彗星が現在亜空間航行中だということだ」 「どうしてそれが問題なんですか?」 不思議そうに尋ねる古代に、真田は言った。 「そうだな。例え話のほうがわかりやすいと思うが…島、航海長として、おまえはワープ中のデスラー艦に接触できると思うか」 島は即座に答えた。 「無理です。そんなことをしていたら、予定地点にワープアウトできなくなります」 「そうだ。それに、亜空間航行中に戦闘して艦の質量を変えたりしたら、時空が乱れて、双方がとんでもない時間や空間に飛ばされてしまう。気が付いたら100万年昔のアンドロメダ星雲にいた、なんてことになりかねない」 鼻白む古代たちに向かって、真田は続けた。 「白色彗星はのべつまくなしにワープし続けているようなものだ。だから、白色彗星が他の惑星を攻撃したり、破壊しようとしてワープアウトし、通常空間に戻った時でないと、われわれは彼らに接触することも、攻撃することもできないということになる」 「それでは、白色彗星が通常空間に戻る時というのは…」 「おそらく、太陽系に近づいてからだろう。ただ、あの大きさだ。あまりに近づいて、星間物質が多くなってからワープアウトしたのでは危険だから、太陽系のかなり手前、オールトの雲よりも外側で通常空間に戻る可能性は高いがな。…だから、テレサというメッセージの主が、白色彗星の正体や、弱点について知っているというのであれば、そちらから先に情報を得てから地球に急行しても、結果にあまり違いはないかも知れない」 それを聞いて古代はうなずいた。 「わかりました。では、発信源の星に向かいましょう。ところで、真田さん」 「何だ?」 「さっき、藤堂長官からの通信で、土方司令をヤマトの艦長に任命する、というんです」 古代は複雑な表情だった。真田は古代の肩を叩いた。 「古代、われわれは反逆者の汚名を免れたんだ。地球防衛軍の戦艦の艦長任命権は長官にある。これでヤマトも立派に地球防衛軍の戦艦として認められたということじゃないか。沖田艦長が健在だったころのように、それぞれが班長として頑張っていこう。…それに、土方さんは、おまえが在学していたころの宇宙戦士訓練学校の校長だろう。いい人が任命されて、良かったな」 古代は明るい表情に戻ってうなずいた。その時、艦長室からエレベーターで土方が降下してきた。古代は姿勢を正すと土方に向かって言った。 「艦長、さきほどご報告していたメッセージの発信源の星がわかりました。これから直ちにワープ航行を開始したいと思いますが」 土方はうなずいた。 「よかろう。島、まず発信源の星までのワープ航行の計画を立てろ。ヤマトはもう一年もワープしていない。真田くんはワープシステムの再点検だ。3時間後に最初のワープ予定とする。…真田くん、ヤマトはいま、1日に何光年までならワープ可能になっているのかね」 「イスカンダルからの帰途で改造しましたので、現在は一回1000光年、1日2回ワープが標準です。それを超えると金属疲労やエンジン破損の危険があります」 「では島、それを前提に航路とワープポイントを決めろ。急ぐ旅だ。なるべく暗礁空域はワープで回避するようにな」 真田は三班にワープシステムの点検を命じた後、すぐ戻ると言い残して自室に向かった。ワープは人体に相当な負荷を与える。できればワープの前に緑の容態が正常に戻ったことを確認したかった。 緑は暖かさと安心感に包まれて眠っていた。いま、自分は自宅にいるという確信がある。しかし、突然暖かさが薄れたことに気づき、目を開いた。自宅とは全く違う光景に周囲を見回す。…そこは真田の船室だった。枕に頭を戻すと、ほのかに真田の匂いがした。 (あなた…さっきまでここにいてくださったんですね) 緑は目を閉じ、枕に手を添えた。すぐ横に少しくぼみがあり、確かに真田がいたことを感じさせた。うれしさに涙がにじむ。 (あなたが軍紀違反をしてまで付き添ってくださるなんて…) その時、船室のドアが開き、真田が入ってきた。緑は顔を上げた。 「緑、もういいのか。どうだ、具合は」 真田は駆け寄って心配そうに尋ねる。緑は微笑んだ。 「もう大丈夫です。頭痛もありません」 「そうか、良かった。…本当に良かった」 真田は笑った。それは心からうれしそうな笑顔だった。緑はその笑顔に胸が痛くなるほどの幸せを感じながら言った。 「あの、すみません。…あなたのベッドを占領して寝てしまって」 真田は緑の頬にかかった髪をかきあげてやりながら言った。 「いや。そんなことはお安いものだ。もうしばらくここで寝ていてくれ。あと三時間でワープだそうだ。また気分が悪くなるといけないから、ワープ終了まで寝ているといい。おれはこれから最終点検だから」 「それではあんまり…」 「いいんだ。そうだ、まだ伝えてなかったが、長官の出航許可が出たから、反逆罪にはならずにすんだぞ。それで艦長に土方さんが任命された。…これで、イスカンダルへ新婚旅行、というのは当分先になりそうだな」 緑は真田を見上げ、大きな瞳を細めてにっこりと微笑んだ。頬を枕につけてささやくような声で言う。 「あなたのベッド…とてもいい匂いです」 真田は真っ赤になった。そして、微笑みながら緑の髪を撫で、部屋から出て行った。 |
ぴよ
2010年05月04日(火) 10時27分18秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 煙突ミサイル ■2011-02-23 00:14 ID:t.3XWgQsmHk | |||||
最後の「真田さんが赤くなる」というシチュエーションがいいですね。好きです。 そして、土方さんは「真田くん」って呼ぶんだ、へぇ〜、と妙なところで感心してしまいました。 |
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No.2 Alice ■2010-05-20 20:31 ID:RsZmjQ4olvo | |||||
複雑な表情が真田さんの一言で一転明るくなる…、古代って単純だ〜(^.^) ヤマトの動向を決めていたのは、絶対古代じゃなくて真田さんだよな…と思う今日この頃です。 あれっ、雪の密航はどうなったのかしら…。 |
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No.1 メカニック ■2010-05-04 15:15 ID:dPqLtHYdQoc | |||||
亜空間航行から星間質量のお話まで説明が分かりやすくて助かります。 緑もよくなってくれてホッとしました。これから始まる激しい戦いの前の束の間の真田さんとの触れ合い。 読んでいた時頭の中でBGM「別離」が流れていました。 |
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