第3章 反逆 /sect.5

 翌朝、島は約束の時間に真田の官舎の前まで反重力車で迎えに来た。真田が乗り込むと、島は古代の官舎に向かう。前夜、古代と島は、謎のメッセージの解析に立ち会いたいと真田に依頼していたのである。しかし、古代の官舎の前で待っていたのは、昨夜と同じピンク色の私服に身を包んだ雪だった。それを見た島の表情がみるみるうちにこわばる。後部座席にいた真田は、島の心中を思って溜息をついた。
(こればかりはどうしようもないことだが…)
 そんなことを知らない雪は、晴れ晴れとした顔つきで島の隣の席に乗り込んだ。続いて古代が後部座席に乗り込む。古代は心なしか照れくさそうな様子だったが、早速データの入ったカプセルを取り出し、真田に説明を始めた。






 定時より早く開発部に到着した緑は、ドアが開いた瞬間、目を疑った。そこには、旧技術班の面々がところ狭しと陣取って、コンソールの足りない者は携帯端末をあちこちに接続し、懸命に何かの作業をしていた。緑は昨夜、真田が眠ったのを確かめた後、こっそり起床して、出航を合法的なものとするための長官提出用決裁データを自宅でほぼ完成させていたが、泣き疲れたのと寝不足のためにヤマトの待機ボックスに戻ったような幻覚を見ているのではないかと思ったほどだった。元技術班員たちはドアの開く音に振り返り、入り口で立ちすくんでいる緑を見ると、一斉に駆け寄った。全員が寝ていない様子で、目の下にクマを作っている者や、顔中にアブラが浮いている者も多く、そんなところもヤマトの徹夜補修を思い出させる。
「緑!ついにシッポをつかんだぞ!」
「やっぱりあいつら、全部わかっていて、権力にしがみつくために隠蔽工作してたんだ」
 口々に言われて何のことかすぐにはのみこめず、呆然としている緑に、青木が話しかけた。
「大丈夫か、緑。泣き腫らしたみたいな顔してるけど…ゆうべ、あの後、技師長がお帰りになってから、みんなで話をしてな。絶対に与党のやつらは何か陰謀をたくらんでる、って結論になったんだ。でさ、いやしくもヤマト技術班が、そんなことぐらいつきとめられなくてどうする、ってことで、いろいろ対策を立てたんだよ。それで、ほれ、これ」
 そう言うと、青木は持っていた端末を見せた。
「特製アオキスペシャルだよ。これで与党本部のコンピュータをハッキングしたんだ。どこから操作したかわからないように、五重のガードをかけてあるんだぜ」
 横から古賀が補足する。
「そもそも回線からたどれないように、中央コンピュータもおれが極秘の回路で防御をかけといたから、そっちも安心していいよ。「コガスペシャル」回路を使ったら、使うそばから履歴が自然に消えるようにしてあるんだ。…それに、もともと与党本部は、防衛軍本部と違ってセキュリティが全然なってないからな。政府からの最高機密が議員経由で事実上じゃんじゃん流れてるのに、まるで素ビルで核兵器をいじってるみたいなひどい有様でさ。なにしろ、素人め、市販のウイルスソフト入れておけば大丈夫だと思ってるんだぜ!あんまりひどいから、実は、頼まれもしないのに、この一年、うちでこっそり隠し防壁を展開してやってたんだけど、昨日の話でそんな阿呆らしいことはもうやめようぜってことになったんだ。あそこはそもそも政府機関じゃないしさ」
「それで、どんなことがわかったんですか」
 青ざめた表情で尋ねる緑に、青木は端末を掲げて見せた。
「おお、見てくれよ。ひどいもんだぜ」
 緑はディスプレイをのぞき込んだ。…そこには、これまで防衛会議で報告されたことを含め、不審機の情報や、謎の艦影についての情報がすべて記載されているばかりでなく、与党の議員らが、選挙対策として立てた方針が逐一記されていた。深刻な表情で読み進む緑を見て、横から青木と古賀がわざと陽気な口調で茶々を入れる。
「あきれるだろ。ヤマトの旧乗組員は国民に人気があるから、宇宙開発やガミラス対策を掲げる野党に擁立されると危険だ、だから早めに左遷して辺境に追放しようとかさ。だれが阿呆どもと一緒に選挙なんかに出馬するかっていうの」
「白色彗星が敵性宇宙人であっても、選挙が終わるまでは極秘にし通して、選挙が済んでから太陽系内部で地球艦隊の波動砲で撃破すれば大丈夫だろう、って報告、ムチャクチャだろ。これ、あの馬鹿な総参謀長の提案だぜ。選挙がすんだら、藤堂長官をクビにして、あのバカ参謀長を長官にする密約もあるっていうからひどいもんだ」
「あいつら、先制攻撃で地上のドックをやられちまえば、地球艦隊もクソもないってことがわからんのだから」
 緑はデータを読み終わると顔を上げた。
「このことを早く局長にお知らせしなくては…!」
 古賀は眼鏡を押し上げながら親指を立てた。
「まかしとけ。こんなこともあろうかと思って、ゆうべ特急で中央コンピュータを改造したんだ。この暗号回路を使えば、司令部にばれない形で通信できるぜ。履歴はすぐに自動消去されて、絶対に後からたどれないようにしてあるよ。ほら、これ、乱数チップ」
 手渡されたチップを端末につなぐと、緑は急いで真田宛のメッセージを入力し始めた。その時、向こうで作業していた松本が声を上げた。
「おー、早い早い。いま山下さんから返事が来たよ。アンドロメダで削減された分の乗組員用のリネン類とか毛布とか、とにかく消耗品系の物資が第一ドックで80人分確保できたってさ。今ある分と併せて、これでほぼ大丈夫だ」
 緑は真田への通信文を入力しながら大声で言った。
「松本さん、資材関係の発注文書なら、今朝作ったやつがここにあるんです。それを手直しすれば、すぐに体裁が整えられると思います。すみませんがデータを回していただけますか」
「おお、わかった。ちょっと待ってろ。…なにしろ、技師長から「ヤマト乗組員として何ができるか考えてくれ」なんて言われたんだもんな。地球の危機なんだ。反逆罪だろうがなんだろうが、とにかく俺たちでヤマトを飛ばして、謎の敵から地球を守ってみせるぜ」
 緑は涙がこみあげて返事ができなかった。ただうなずくと、唇をかみしめて真田への報告文を入力し続ける。それを見た青木は、緑の後ろから、肩に手をかけて小さい声で言った。
「安心しろ、緑。技師長を首謀者になんかしないから。これはおれたちの総意でやってることだ。百姓一揆と同じだからな。…それに、もし偵察が空振りでほんとにやばい状況になったら、みんなでイスカンダルに行って楽しく暮らそうや。もともとみんな、ずっと前からそうしたがってたんだから」
 それが限界だった。緑は完成した真田への通信文を送信すると、その場に泣き崩れた。
「おい、青木、何泣かしてるんだよ!」
「馬鹿野郎、抜け駆けするなー!」
 笑い混じりの怒号が飛び交う中で、男たちは生き生きと作業を続けている。その時、部屋の隅で黙々と端末を叩いていた吉川が急に顔を上げた。
「わかったぞ!これなら全員無事にすむかもしれない」
 全員が振り向くと、吉川は明るい声で続けた。
「与党本部に古賀がかけてた隠し防壁に、これまで毎日ハッキング攻撃してたやつの居場所がわかったんだよ。なんと野党本部ビルのど真ん中さ」
 古賀が吉川に駆け寄り、端末をのぞき込む。
「ほんとか、吉川!攻撃の中身が全然ヘタクソだし、どうせうざいオタクの子供だろうと思って、これまで逆探知してなかったんだ。おれがウカツだったぜ」
「な。そうだろ。これなら、隠し防壁をとっぱらっちまえば、このえげつない情報、あっさり全部野党行きだぜ。そうすれば、与党のやつら、嫌でも白色彗星とか不審機のことをマスコミに説明せざるをえなくなるだろう。おれたちを反逆者扱いしてる場合じゃなくなるよ。さっき調べたけど、もともと職務命令で展開してた防壁じゃないんだし、与党本部は法的に守るべき対象にも入ってないんだから、隠し防壁とっぱらっても大丈夫だ。むしろ、政府の機密を与党本部に持ち出したやつのほうが機密漏洩で処罰されることになるはずだぜ」
 技師たちは歓声を上げて一斉に親指を立てる。緑は大急ぎで決裁文書を完成させた。その時、真田からの返信が緑のコンソールに入った。急いでウインドウを開く。
(本当にありがとう。みんなにくれぐれもよろしく伝えてくれ。ただ、最終的に動くのは少し待て。謎のメッセージはおそらく精神波通信だ。俺も古代も島も、だいたい同じ意味を感じとれたが、予知能力のあるおまえならもっと詳しい意味が感じとれるかもしれない。観測室にメッセージのデータをコピーしておいた。「雪の結婚式のスピーチの依頼で」長官室に行って、お渡しすべきものをお渡しして、その帰りに観測室で聞いてきてくれ。正午までは観測室に当直員が入らないよう当直を解除しておく)
 この短時間にどう解析したのか、真田からのメッセージは、乱数チップもないのにコガスペシャルの暗号回路から送られてきていた。緑は青木のハッキングしたデータを印刷すると立ち上がった。
「みなさん、いま局長からご連絡が入りました。最終的に動くのは少し待ってほしいとのことです。それから、本当にありがとうとおっしゃっています。…松本さん、資材調達の決裁文書はできましたから、お預けしておいてよろしいですか。これから、長官室と観測室に行ってきます」
「長官室だって?!」
「なんであんな腰抜けに?」
 口々に上がる疑問の声に、緑は印刷した書類を封筒に入れながら説明した。
「長官が事情を理解して、ヤマト発進の決裁さえくだされば、反逆罪にならずにすみます。そのために、さっきの与党の密約のデータは必ず役に立つと思います。司令部に発進を妨害させないためには、長官決裁用文書はヤマトが発進した後に提出して決裁をもらうしかありませんが、紙ベースの決裁手続にしておけば、発進との時間的な前後関係はごまかせるはずです」
「ひえー、いまどき紙決裁かあ!」
「その手があったとはな…ていうか、今だにその規程が有効だとは知らなかったよ」
 技師たちの声を背後にして、緑は急いで出て行こうとした。その時、緑のコンソールを見ていた吉川が駆け寄った。
「緑、急ぐんだろう。観測室は遠いから、車で送るよ。きみが長官室に行ってる間、地下のB4区画の車庫で待ってるから」
「ありがとうございます」
 緑はバッグから盗聴探知用のボールペンを出すとポケットに差し込み、小走りにエレベータに向かった。

ぴよ
http://yamatozero.cool.ne.jp/
2010年04月11日(日) 22時26分05秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんは。sect.5をお届けします。

もともと漫画を描くのが好きなせいで,小説を書くとき,主要な「書きたい」シーンをまず漫画のネーム(絵コンテみたいなものです)として描いて,それをいろいろなエピソードでつなげてお話にしております(全部をコミックとして描くのが大変なので,小説+挿絵という手法に逃げた,というのが本当のところです)。たとえば前作のコスモクリーナーとか七色星団とかはネームで描いております。

…青木くんは第一部のとき,ネームに一度も出てこなかったため(古賀くんはしばしば出ていました),今回,どんな顔にしようかなあ,と考えながら描いていたところ,無駄にハンサムになってしまいました。そのせいで,書く側が逆に洗脳されまして,お話の展開そのものがいろいろと影響を受けております。そんなわけで,前作ではただの「ひょうきん族」だった青木くんですが,今回の「アオキスペシャル」以降も大活躍の予定です(というと,吉川くんがますます気の毒な感じですが…)。

次回は長官のセクハラの実情(?)というかスパイ大作戦風の展開です。どうぞよろしくお願いいたします。

この作品の感想をお寄せください。
No.3  Alice  ■2010-04-22 15:02  ID:d7zIwgFWjU2
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第1部の時も思ったのですが、ぴよさんの技術的な知識の幅広さに驚かされます。…で、以前、技術畑の方ですか?とお聞きしたら、完全なる文系だとのこと、文系の思考回路でコバンザメやαー4やブラックタイガーの電磁網作戦、そして今回のハッキングの記述、アイディアだけでもスゴイのに、どうしてこうもリアルに描写できるのか、本当にマルチな方ですね!
おまけに政治がらみのきな臭い話も説得力120%で、改めて第2部を公開して私たちを楽しませてくださったことを、感謝します。

それと無駄にハンサムって素敵なことだと思いますよ。
私だって、山本が初ワープ時の藪に似た感じのままだったら、それほど入れ込まなかったはずですし(^^ゞ
No.2  ミュウ  ■2010-04-12 03:09  ID:GD2qxoXcsHg
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> (青木くんが)無駄にハンサムになってしまいました。
(((^o^))) 
・・・すみません・・・。  第2部最初の感想書き込みが本編と関係のないぴよさんのメッセージに反応してのもので・・・(汗)
ブラックタイガーの山本のように女子に人気が出て、無駄にハンサムじゃ済まなくなってきたりして・・・(^▽^


基本的に人は報酬を得る為に仕事をしていますが、お金の為だけに人は動くものじゃないというエピソードが伝わって来て、とってもヤマトストーリーらしさが感じられ「じ〜〜ん(TT)」です。
No.1  メカニック  ■2010-04-14 17:41  ID:LABEjfsNLFE
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怒濤の展開になってきましたね。みんなが一致団結をして作業を行うのは素晴らしいです(^^)
技術班のチームワークが羨ましい!
スパイ緑の活躍にも期待します!そして島さん…ドンマイ……。
総レス数 3

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