第2章 予兆 /sect.4



真田は第1ドックのアンドロメダの舷門前で、レーザーライフルを掲げた警備兵と押し問答をしていた。
「だから、どういうことなのかと言っているんだ。このドックの最高責任者は私だ。どうして艦内への立入りを禁じるなどということができるのか説明してもらおう」
「地球防衛軍司令部の命令です。総参謀長の署名のある命令書で、昨夜の最終点検終了後、明日午前9時の進宙式まで、何人たりともこの舷門から中に入れるな、との命令が出されています。進宙式に反対する破壊分子によるテロ工作を防止するためとのことです。申し訳ありませんが、開発局長も立入禁止の例外には入っていないんです」
(…政府のやつら、どうあってもアンドロメダの手直しをさせないつもりだな)
 警備兵は緊張で強張った表情のまま、棒を呑んだように突っ立っている。ここでこれ以上警備兵とやりあっても事態が改善する見込みはなさそうだった。艦内に入ることをあきらめて第1ドックの開発室に戻ろうとした真田は、ドックを一周するキャットウォークの上に立ってアンドロメダを見下ろしている人影を見て、思わず声をあげた。
「…長官!」
そこにいたのは、地球防衛軍司令長官、藤堂平九郎だった。



「総参謀長が出過ぎたまねをしてね。今夜のうちに中を見ておこうと思ったんだが、驚いたことに私ですら入ってはいかんというんだよ」
 藤堂は憮然とした表情で言った。
「そんな馬鹿な……」
 驚き呆れる真田に、藤堂は寂しそうな笑顔を向けた。
「君には、帰還後、コスモクリーナーと食料プラントの建造で本当に世話になった。今日の閣議でも、地球のインフラ整備は一段落した、という意見が出されたぐらいだ。礼を言わせてもらうよ」
「ありがとうございます。長官のお言葉は、部下全員に伝えます。ところで長官、長官はアンドロメダの全自動化のことは」
 藤堂は、目をそらすと淡く輝くアンドロメダの艦体を見た。
「知っている。…私は君と同様に強く反対したんだが、政府、というより今の与党の選挙対策委員会が強硬でね」
「選挙対策委員会、ですか…?」
「そうだ。君たちには、この一年間、昼夜兼行で奔走してもらっていたから、帰還前から今までに地球の政局がどうなっていたかなどという生臭い話はあまり知らないだろうが、来月末に、ガミラス戦役終了後初めての総選挙があることは知っているね」
「はい」
「今の政府は5年前の総選挙で政権をとった。彼らは、ガミラスが遊星爆弾で攻撃してきている間は戦争遂行に積極的だったが、冥王星基地が壊滅して地球への攻撃が止まった後は、放射能汚染や食糧危機がいよいよ深刻になって支持率が低下したことをきっかけに、軍縮をスローガンにするようになった」
「ヤマトの航海中にそんなことが…」
「ああ。彼らは、今では『ガミラスの残党などいない』というのを政策の大前提としている。『戦争は終わった。地球の開発、そして経済成長にすべての活力を!』というのが今回の選挙キャンペーンだよ。だから、アンドロメダは「国民を戦場に送らずにすむ最新鋭全自動戦艦」として、これさえあれば万一の時にも大丈夫、だから防衛軍は大幅に縮小する、という宣伝のために建造されたようなものだ」
 藤堂は、大きく溜息をつくと天井を仰いだ。
「野党は、『宇宙全体で地球人類の繁栄を!』というふれこみで、宇宙開発とそれに伴う防衛予算は認めていく政策を掲げているが、これまた地球防衛のことがどこまでわかっているのかおぼつかない。宇宙に行けば資源は無限だ、だからどんどん出て行こう、という安易な発想のような気がしてならない」
 その時、真田が持っていたポータブル端末がかすかに振動した。振動パターンは緑からのデータ送信であることを示している。真田は顔を上げ、藤堂に言った。
「長官、そのことに関連して、ぜひお伝えしておかなければならないことがあります。少しだけで結構ですから、お時間をいただけますか」


 真田は第1ドックの二階に設置された開発室のモニターに端末を接続し、白色彗星について藤堂に説明した。藤堂は、白色彗星の進路と速度、航行方法についての真田の説明がひととおり終わった段階ですぐに言った。
「亜空間航行……確か、それはワープ航法を超える幻の航法と言われていたものではないのか」
「おっしゃるとおりです。亜空間内部をずっと航行することができれば、よほどの重力震でもない限り、暗礁空域等に悩まされることなく、比較的安全に目的地に直行できますし、ワープアウトした時に既存物質の上に出現して対消滅する危険も少なくなります。ですが、これまでのところ、ガミラスも地球も、亜空間航行エンジンの開発には成功していません。しかも、この彗星は、観測直径が一万キロを超える巨大な物体です。このような質量の物体を建造し、かつ、亜空間を継続的に航行させる科学力は想像を絶します」
「しかし、そうだとすると、この彗星を動かしている異星人は、一つ間違えば地球にとって非常に危険な存在になるのではないか」
「はい。どんな兵器を持っているか、想像もつきません。敵対的異星人だった場合に備えて、早急な対応が必要だと考えます。月基地の付近で、不審な偵察機と思われる機体が目撃されたとの複数の情報もあります」
 藤堂はそれを聞くと沈鬱な表情で黙り込み、かなりたってからようやく言った。
「それは私も報告を受けている。平面的な形状の偵察機だね。……実は今日の閣議でも不審機の話をしたんだが、とりあってもらえなくてね」
 驚く真田を前に、藤堂は続けた。
「内閣の連中は、全員、それはヤマト帰還兵のPTSDによるフラッシュバックだ、と言って片づけたよ」
「何ですって!」
 真田は思わず叫んでいた。藤堂は真田の顔を見て、目を閉じた。
「わかるだろう。彼らにとっては、選挙前に新たな敵が出現しないことが重要なんだ」
「この彗星はこのままだとあと70日で地球に到達します。選挙が終わるのを待つ余裕などありません。一刻も早く偵察をして適切な対策を立てないと、遊星爆弾の先制攻撃で都市を壊滅させられたガミラス戦の二の舞になります」
 藤堂は再び目を開いた。自嘲の表情を浮かべる。
「私は、防衛大臣から任命を受けている身でね。…総参謀長が最近、むやみに強気なのには理由があるんだよ。あれの奥さんは与党の幹事長の妹なんだ」
 重苦しい沈黙が開発室を満たした。藤堂はやがて立ちあがると背筋を伸ばして言った。
「真田局長、地球が再び未曾有の事態に突入しつつあることはよくわかった。あさっての防衛会議の時に、白色彗星についてなるべくわかりやすい資料を準備して説明してくれたまえ。不審機の件も正式に報告してもらうと助かる」
「了解いたしました」
 真田はさっと敬礼した。
「こんな時は、つくづく沖田が生きていてくれたらと思うよ。…今日は重要な情報をありがとう」
 藤堂は、つぶやくように言うと部屋を出て行った。
ぴよ
http://yamatozero.cool.ne.jp/
2010年04月03日(土) 11時39分55秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
おはようございます。
第8ドックのヤマトにあれほど苦戦したのに,第1ドックにも強敵アンドロメダがいました…。やたらドック内の照明が暗いのは業務終了後だから,というタテマエですが,実はアラ隠しのためという説が濃厚です(^^;)
本当のアンドロメダに似てない点はお見逃しくださいませ。

次回から第3章「反逆」になります。穏やかならぬタイトルですが,とりあえず最初はユキちゃんの古代くんとのデート準備シーンから始まります。次章はタイトルと裏腹に,女子更衣室っぽいユキちゃんと緑の「女の子会話」がそこそこ出てまいりますので,どうぞよろしくお願いいたします。

この作品の感想をお寄せください。
No.3  煙突ミサイル  ■2010-09-06 10:05  ID:t.3XWgQsmHk
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政治家って人種だけはいつでもどこでも同じかもしれませんね。
初登場の藤堂長官がいいですね〜。
No.2  Alice  ■2010-04-13 10:39  ID:6ChW.ZWEJzk
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現与党の幹事長も、やたら強気ですよね。日本はどこに行っちゃうんだろう…と心配な今日この頃ですが、200年後も心配の種は同じなのでしょうか。
人間って、のど元過ぎればすぐに熱さを忘れてしまう生き物なんですね。ガミラス戦であれだけ痛い目に遭っているのに、もう警戒心を失くしてしまうとは。

冷静沈着で知られる真田さんが、「行こう、古代!」といとも簡単に反逆に加担した背景には、こんな経緯や事情があったのだということが丁寧に描かれていて、軽率にも見えるその行動に説得力が増します。
よかった、技師長が単なる激情やその場のノリで動いたんじゃなくて…。
No.1  メカニック  ■2010-04-03 13:46  ID:AtHRGSqYRU2
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藤堂長官が初登場です!アンドロメダも淡く照らされている感じがイイです!
それにしても23世紀になっても政治的な生臭い話は無くならないですね…。
与野党関係なく一致団結して危機に立ち向かう…今も未来も必要だと思います。
総レス数 3

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