第4章 出航 /sect.1 |
「なあに、たとえ地球に接近してきたところで、先頃完成したアンドロメダをはじめ、波動砲装備の戦艦だけでもいまや全世界に数十隻、彗星の一つや二つ、簡単に破壊してごらんにいれますよ」 総参謀長はそう言うと高笑いした。真田は沈鬱な表情でその様子を見ていた。…真田は防衛会議の冒頭、白色彗星の危険性と亜空間航行の意味、不審機の状況等について詳しく報告し、謎のメッセージも会議室で再生された。しかし、危惧していたとおり、会議は与党本部の既定路線どおり進行し、長官が何度か再考を促したものの全く一顧だにされなかった。 (なるほど、シナリオ通りということか。…しかし連邦の中枢がここまで腐っていたとはな) 真田は早々に会議に見切りをつけ、むしろ長官の動静のほうに注意を払っていたが、ふと隣を見ると、オブザーバーとして参加していた古代が顔を引きつらせて閣僚をにらみつけていた。古代は、謎のメッセージを受信した護衛艦の艦長だからという理由で特に参加を認められていたのである。真田は激しやすい古代の性格を考えて、防衛会議の前に与党の密約の話を伝えるのは見合わせていたが、それでもなお、古代の我慢は限界に達しつつあるようだった。 (まずいな…ここで古代が爆発すると、ますますヤマト乗組員がマークされる) 真田がそう思った時、財務大臣が肩をもみながら馬鹿にした口調で言った。 「やれやれ、人騒がせな話は、いい加減にしてもらいたいものだ」 古代はいきなり立ち上がり、止める間もなく叫んだ。 「お尋ねします!地球は、宇宙の平和を守るリーダーではなかったのですか!」 それは昨日の大統領の演説を逆手に取った発言だった。閣僚らがじろりと古代を睨む。 「古代、やめろ」 真田は古代の身体に手をかけて制止したが、古代は振り払ってなおも続けた。 「われわれ地球人類が、真に平和と繁栄を願うなら…」 その時、総参謀長が立ち上がり、古代を指さしてヒステリックに叫んだ。 「やめたまえ、君はオブザーバーだ。防衛会議を批判する権利はない!」 ばらばらと警備員がかけつけ、古代は会議室の外につまみ出された。すぐに長官が閉会を宣言し、大統領が以後は閣議になるとして真田に退席を求める。真田は目を閉じて立ち上がった。 (古代はヤマト旧乗組員の代表のようなものだ。…帰還後にマスコミで取り上げられた回数も雪と並んで一番多い。与党が野党対策として左遷を検討しているのも、おそらく古代だろう。今日、古代に同席を許したのは俺のミスだ) 真田は地下都市に向かう前に本部内の局長室に戻り、防衛会議の結果について緑に連絡をとろうと携帯端末を開いた。すると、そこには旧技術班員から大量の着信があった。 「他班を含む旧乗組員のうち、接触可能な者全員に、暗号通信用の乱数チップを配布しました。詳しい事情は追って連絡すると言ってあります。配布時には、昨日の宴会の集金名目で手分けして回りましたから、保秘についてはご安心ください」 「消耗品、医薬品、医療器具、補修用金属原料ともに手配終了しました。15時から搬入開始できます」 「技術班は全員参加確認済みです。身辺整理も完了、15時から資材搬入後、すぐに艦内の整備に回ります。班分けとシフトはとりあえず旧体制のままで、戦死者分は欠員としますが、またご指示ください」 真田は部下たちの鮮やかな連携ぶりに感動しながら通信文を読んでいたが、一班班長の山下から送られてきた最後の通信を読むと苦笑した。 「班分けとシフトについて訂正があります。吉川が緑を送って観測室に行った後、新採用の新米俵太という科学局職員をスカウトしてきてしまいました。保秘のためやむを得なかったということですが、宇宙戦士訓練学校も出ていない、採用後10日目かそこらのどシロウトですので、一班Cで私の手元に置いて仕込みます。吉川も責任をとらせて青木と入れ替え、一班Cで指導に当たらせます。申し訳ありませんが、青木は開発部ですので、緑と一緒の一班Dにしたほうが開発中のアイテムの開発継続にも便利かと思います」 (新米というと、あの新人の観測員だな。しかし、吉川のやつ、可哀想なことになった…今頃、頭をかきむしって後悔しているに違いない) 真田は技術班員全員に宛てて防衛会議の結果と感謝の気持ちを伝えるメッセージを送り、立ち上がった。地下都市の会合で他の班の乗組員たちに説明をする時間である。 地下都市の旧地球防衛軍本部は、わずか一年で廃墟同様の状態になっていた。かびくさい臭いが漂い、計器やスクリーンは、かつてここがガミラス戦の指揮をとる中枢であったとは到底思えないほどホコリにまみれ、汚れきっている。旧乗組員たちは、かつて指揮卓であったところに腰をかけ、与党の密約と防衛会議の結果に関する真田の説明を聞いていたが、やがて通信班の相原と航海班の太田が怒り出した。 「地球に直接被害を受けなければわからないのさ!」 「それからじゃ遅すぎるぜ!」 古代は防衛会議で不規則発言をしたことを後悔しているのか、まだ何も言わない。その時、入口付近にいた乗組員から声が上がった。 「ち、長官!」 藤堂は手を背後で組み、静かに入ってきた。 (ここで集まっていることが既に本部に把握されているのか…?!) 真田の脳裏を、いろいろな可能性がかけめぐる。しかし、そんなことを知らぬげに、藤堂は真田を見て淋しく笑った。 「たぶん、ここだと思ったよ」 「長官…」 「わしも時々、ここへ気持ちを休めに来ることがあるんでね」 藤堂のその言葉は、一瞬真田を安堵させた。しかし、次に藤堂が発した言葉は、その場にいた一同を仰天させた。 「実は、ヤマトのことだがね。…廃艦と決まったよ。今後は記念艦として残されることになる」 一斉に驚きの声が上がる。真田は思わず前に進み出た。 「長官、ヤマトの元技師長として申しあげます。ヤマトは、まだ衰えてはいません!」 「わかっている。…防衛会議の決定だ」 藤堂のその言葉に、真田は事態を一瞬で理解した。与党がもともと立案していたヤマト旧乗組員排除計画を、今日の防衛会議での真田の報告と、古代の発言が後押しする形になったことはほぼ間違いない。藤堂はその推測を裏付けるように続けた。 「命令を伝える。…古代進、明日15時、木星ガニメデ基地に出航を命じる。島大介、君は同14時、火星基地に出航だ」 この命令で古代と雪の結婚式が不可能になったことに気づかない者はいなかった。再び激しい抗議の声が上がったが、藤堂はうめくように「命令に説明はない」と言い、視線を落として立ち去った。 (長官…閣議で相当やられたに違いない。更迭の話ももう出たのかも知れない。これでは出航の決裁がもらえる見込みは果てしなく小さい。おそらく反逆罪は確定的だな) 覚悟を決めて見回すと、周囲では古代、相原、南部たちがヤマトの果たしてきた役割や、地球防衛の必要性について口々に激しく語っている。その姿は、真田に決意を促した。 (ヤマト乗組員を排除する動きが本格化している。…どのみち、彼らが何かの濡れ衣を着せられて不合理な処分をされる可能性も少なくない。白色彗星が地球を攻撃することが確定的である以上、みんなにとってこれが最善の決断なのかもしれん) ちょうどその時、古代はヤマトの使命について熱く語っているところだった。 「俺たちは見た。宇宙全体の平和がない限り、地球の幸せはない。その宇宙の平和を守るためにヤマトがあるんだ。おれたちはそのヤマトで、一緒に戦ってきたんじゃなかったのか!」 真田は古代の背中を叩き、自分の中の迷いを断ち切るように叫んだ。 「行こう、古代!たとえ懲罰をくらっても、行くんだ。それがヤマトとともに生きてきたわれわれの使命だ!」 真田の言葉に、乗組員たちは一斉に賛同した。真田と古代は固く手を握り合った。 |
ぴよ
http://yamatozero.cool.ne.jp/ 2010年04月17日(土) 10時16分29秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 煙突ミサイル ■2010-11-05 17:14 ID:t.3XWgQsmHk | |||||
ああ、せっかく吉川君が活躍すると楽しみにしていたのに。 いえ、今後の活躍を期待します。それにしても、軍人の結婚式って こんなことで延期になっちゃうもんなんでしょうかね。 大変な商売ですよね・・・。 |
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No.2 Alice ■2010-04-23 16:04 ID:heaggj750lo | |||||
ここまで読んできて思ったのは、ヤマト出航の本当の立役者は古代君ではなく、真田さんだったんじゃないかということです。 防衛会議出席も、まず真田さんそしておまけで古代君、乗組員の今後まで考えて出航する方がいいという結論を出したのも真田さん、ヤマトと旧乗組員が政治的な思惑から排除されようとしていることを察知したのも真田さん、会議前から出航をにらんで表面下で準備を進めていたのも真田さんと技術班、「行こう、古代!」の裏側にはこんなにも多くのドラマがあったんですね。 ただのノリや正義感だけではなく、深い考えの元に決めた出航、改めて感動です。 |
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No.1 メカニック ■2010-04-17 15:04 ID:AtHRGSqYRU2 | |||||
防衛会議の決定は予想通りですが、明日ガニメデ基地送りになる古代くんは結婚式も挙げられないことになりますね。 式の段取りも出席者も決まってますし、血も涙もなくしかも政治的な背景だけで下される命令に今更ながら憤りを感じます! 吉川くんはこのところいい話題もなくツイてないですが、そんな吉川くんを応援してます(^^) |
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