第3章 反逆 /sect.3 |
雪は、古代が南部の肩を抱いて大声で叫んでいる様子を見て、ため息をつくと、緑のほうに向き直った。…二人は、男達から少し離れ、沖田の像の足元にある花壇の縁に座っていた。 「ねえ、緑。…真田さんと、結婚式の前に買い物とかに行った?」 緑はけげんな表情で首をかしげた。 「ええ、私服が全然なかったのと、ウエディングドレスを前日まで決めていなかったから、それを買いに行ったけど…どうしたの?」 雪は視線を落とした。 「今日、古代くんと新居の家具を買いに行ったの。…でも、古代くんたら、ずっとうわのそらで「うん、うん」しか言わないし、すぐに暗い顔で考え込んじゃうし……結婚式まであと3日だっていうのに、全然楽しそうじゃないの。…もしかしたら私と結婚するのを後悔してるんじゃないかって思って…」 雪は声をつまらせた。緑は雪の肩を抱くと、顔をのぞきこんだ。 「そんなわけないじゃない。男の人だから、きっと買い物が苦手なだけよ」 雪はぱっと顔を上げた。真剣な表情で聞く。 「真田さんも買い物のとき、そうだった?」 「そうね。…あまり技師長らしくないというか、「あー、じゃ、それでいいだろう」とおっしゃって、少しあわてた感じでお決めになってたかもしれないわ」 緑はそう言うと、数か月前を思い出して少し微笑んだ。それを見た雪は、せっぱつまった様子で緑の手を握った。 「ねえ、緑。…変なことを聞くようだけど、教えてほしいの。結婚生活って、どんな感じ?私、地球に戻ってからはずっと親元から通勤で、古代くんは護衛艦勤務で宇宙ばかりだし、この一年、ほとんど会えてないでしょう。それなのに、今日、久しぶりに会えたらあんなふうだから、結婚したら、どんな暮らしになるのか、ほんとに予想がつかないのよ。うちのパパは実業家だから、休みの日ぐらいしかうちにいなくて、休みの日にママや私とお出かけして、買い物をしてみんなでお食事するのが一家団欒っていう家庭だったから…」 そう言いかけると、雪はうつむいた。緑はしばらく考えていたが、うなだれたままの雪の前に周り、膝をついて雪の顔を見上げた。 「あのね、雪。古代さんの官舎に、お泊まりしたことはある?」 雪はたちまち真っ赤になった。 「え、え…?あ…うちは外泊は許してもらえないから…ええと、デートでいっしょに遠くに行ったときに、ええっと……」 緑は微笑みながらかぶりを振った。 「ごめんね。私こそ変なこと聞いて。そういう意味じゃないの。…私のときは、帰還した日に技師長が艦内から電子申請で結婚の届け出をしてくださったから、ヤマトからの退艦手続が終わったら、そのままご一緒に技師長の官舎に行ったでしょう」 「そうだったわね。あのときは、さすが真田さん、ものすごい行動力だってみんな言ってたわ…でも、それが?」 「その時に思ったの。…ほかの人がだれもいないおうちで、好きな方と二人きりになれるって、なんて素晴らしいのかしら、って。本当に夢を見ているみたいだったわ。その気持ちが今でもずっと続いてる気がする」 「………」 「二人でいる時に、技師長がニュースを見て何か感想をおっしゃったり、食事の時に「これはどこのプラントの製造分だろう」とかつぶやいたりされるでしょう。そのたびに、ああ、こういう時間をご一緒できるって、なんて幸せなんだろう、と思うの。結婚式のときは、みんなにお祝いしてもらって、とっても幸せだったけれど、本当は、私にとっては、技師長と二人だけでいる時間のほうがずっと大切で、幸せに思えるわ」 緑はあらためて雪の手を握ると、顔を見上げた。 「古代さんは護衛艦勤務だから、もともと雪と一緒にいられる時間が少ないでしょう。買い物に行くと、よその人が沢山いるところにいなくちゃいけないから…。古代さん、小さい時にご両親を亡くされたっていうし、インテリアとかに全然こだわりがないんじゃないかしら。きっと、買い物より、雪と二人きりでゆっくりしたかったんじゃないかと思うんだけど」 雪の顔がぱっと明るく輝いた。緑は続けた。 「技師長がおっしゃったように、新しい敵が近づいているわ。…とってもいやな予感がするの。この数日中に、大変なことになるかもしれない。だから、古代さんと一緒にいられる時間を大切にしてね」 雪は大きくうなずいた。そして、きっぱりと顔を上げて言った。 「ありがとう。いまの言葉でふっきれたわ。緑、今夜、私が緑のうちに泊まったことにしてもらってもいい?」 緑はにっこりと笑った。 「大丈夫よ。技師長と二人で、親御さんにちゃんとお話しするから。私が無理にうちにさそって、雪が酔っぱらって寝ちゃったことにするわね」 雪はうなずくと立ち上がった。 「緑、本当にありがとう。一生恩に着るわ。…いま気がついたの。ずっと平和だって思ってたけど、また敵が来ていて、戦いになるかもしれないなら、一日だって無駄にできないわ。結婚式は平和になってからいつでもできるもの」 雪はそう言いながらじっと古代の姿を見ていたが、ふと思い出したように振り返り、笑いながら言った。 「ねえ、それはそうと緑、真田さんのことをいまでも「技師長」って呼んでるの?」 緑は顔を赤らめた。 「…あ、あの…うちでは違うし、開発部ではちゃんと「局長」ってお呼びしてるんだけど、ほら、雪と話してると気持ちがヤマトのころに戻っちゃって…」 「そうよね。私だって、夫婦別姓にはしない、って言ってるのに、どうしても「古代くん」って呼んじゃうんだから一緒だわ。…とにかくありがとう。いまから古代くんに爆弾発言をしてくるから」 そう言うと、雪はウインクをして古代のほうに走り去った。 |
ぴよ
http://yamatozero.cool.ne.jp/ 2010年04月07日(水) 22時55分25秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 煙突ミサイル ■2010-10-24 15:41 ID:t.3XWgQsmHk | |||||
先のお二人の意見、ごもっともです・・・(ぷぷぷ、と笑ってしまいました)。 でも、女の子の家へのアリバイ電話は、女の子がした方がいいと思う。 男がしちゃ、パパとママもちょっと困るでしょうし・・(ははは)。 |
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No.2 Alice ■2010-04-16 14:11 ID:HvFArhxOHew | |||||
雪ちゃんが翌日も前日と同じ服装だった…って、気付きませんでした。 そんな小さな事実にきっちり裏をつけるストーリー、本当に細かいところまでじっくり考えて作り込んだお話しですね。だから説得力もあるし、ぐんぐん引き込まれるのでしょう。 いろいろ言いたいことはあるだろうけど、古代君もちっとは女心を勉強してね。 |
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No.1 メカニック ■2010-04-08 12:16 ID:AtHRGSqYRU2 | |||||
緑と雪の二人が仲良く話をしているのがいいです。この二人は親友ですね。古代と島の関係のように 雪の爆弾発言をされたときの古代進の仰天顔、四苦八苦しながら森家にアリバイ電話をする真田さんと傍らでそれを見て笑っている緑。 両方ともどんな様子か目に浮かんできます。 |
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