第3章 反逆 /sect.2 |
その日はヤマトが地球に帰還した日…沖田の戦没記念日だった。英雄の丘に建てられた沖田の墓碑と銅像に夕陽が照り映えるころ、ヤマトの旧乗組員らが続々と墓碑の前に集まってきた。古代、島、真田、徳川ら第一艦橋のスタッフが白い花輪を墓前に捧げ、最年長の佐渡の号令で整列すると、全員が一斉に敬礼した。生前の姿とそっくりに造られた沖田の像を見上げると、どの乗組員の胸にも、苦しかったあの航海の思い出がよみがえってくる。…真田は心の中で沖田に問いかけた。 (沖田艦長、艦長ならこんな時どうなさいますか。…文民統制の必要性はよくわかっています。しかし、それも地球が生き延びられたときの話です。地球人類を存続させ、地球の安全を守るためには…) 墓参が終わった後、一同は英雄の丘の広場で宴会を開いた。地球にいた者は全員が集まっていたため、かなりの人数となっており、世間で有名な旧ヤマト乗組員が人目をひかずに集まれる場所はほかになかった。皆は車座になってそこここに座り、持ち寄った酒を酌み交わしながら歓談していた。そのとき、ひときわ大きな声が響いた。 「沖田艦長はこういう地球を作るために命を賭けられたんですか!」 古代は、佐渡を相手に息巻いている。隣では雪が心配そうな表情でハラハラと見守っていた。真田は古代のところに行こうと立ち上がったが、そのとき、相原が近づいてきて声をひそめて言った。 「真田さん、今日、護衛艦で謎のメッセージを受信しました。それが、どうも気になるものなのでご相談したほうがよいのではないかと思うんです」 真田は相原の肩に手を添えて一緒にその場に座った。 「どんな状況だったのか、詳しく教えてくれ」 「はい。…受信したのは、火星軌道の内側に入ってからです。電波とも音波ともつかないおかしなエネルギー波で、かなりの強弱があります。通信機には音声のようなものとしても記録されているんですが、音声として再生すると意味不明の高低のある歌のような感じに聞こえるんです」 「発信源は探知できたのか」 「すみません。気づいて記録し始めた時にあまり艦の速度が出ていなかった上に、すぐに通信が止まってしまったので、二点間のデータがうまくとれず、方向探知が困難な形でしか残せませんでした。ただ、超光速通信にしてはむやみに瞬間出力が大きいことと、…」 そう言うと、相原は自信のなさそうな顔で言葉を濁した。真田はにっこりすると言った。 「なんだ?いいから気にしないで言ってみろ」 「どうも、そのデータを再生していると、何か映像のようなものが見える気がしたり、意味が勝手に頭の中に入ってくるような変な感じを受けるんです」 相原は、そっと古代のほうをうかがった。古代は佐渡や雪を相手に地球連邦政府への怒りをぶちまけている。相原はさらに声を低くして言った。 「私は、ヤマトの航海の途中でノイローゼになってみなさんにご迷惑をおかけしたこともありますし、今回も自分の気のせいじゃないかと思うと、艦長の古代さんには言いにくいんですが…」 「古代は、その時、艦橋で一緒に通信を聞いたんじゃないのか」 「エネルギー波のほうが強かったので、音声版を大きく聴いたのはヘッドセットをつけていた私だけだと思います」 「データはどうした」 「エネルギー分と音声分の両方を古代さんに渡しました。今日は雪さんと予定があるので、あした真田さんに解析をお願いする、と言ってましたが、解析の時、もし、真田さんも私と同じような感じを受けられたら、何かのご参考になるかと思いまして…」 「ありがとう。その情報だけでも十分参考になるよ。…それで、どんな映像が見えて、どんな意味が聞こえたんだ」 「あの…」 相原は真っ赤になった。 「ふざけているわけじゃないのでご理解いただきたいんですが、映像のほうは、とても美しい裸の女のイメージです」 「裸?全裸の女か?」 真田は眉をひそめた。これはやはりノイローゼを疑われていると思った相原は慌てて付け足した。 「あの、いやらしい感じじゃなくて、なんて言うか、その…床に届くぐらいの長い金髪で、髪も体も後光のように光って、空中に浮かんでいて、まるで女神様とか、そういう感じです」 真田は眉をひそめたまま黙っている。金髪、裸、という言葉を聞きつけた乗組員が急に集まってくる。相原はそれを見て、開き直ったように大きな声で続けた。 「メッセージのほうは、はっきりしませんが、危ない、時間がない、と言っているような感じを受けました。聴いているとぼやっと映像が見えてきて、どんどん不吉な予感がして焦った気分になってくる、そういう謎の通信データなんです。サーシャさんの通信カプセルのこともありますし、異星人の全く未知の技術なのか、それとも私の気のせいなのか、とにかく解析をよろしくお願いします」 「わかった。明日、朝一番にやるよ。別におまえがノイローゼだと思ったわけじゃない。どんな通信技術なのかと考えていたんだ。…地球周辺を航行しているとき、ほかに何か不審なものを見たり聞いたりしなかったか」 真田がそう言った時、横から沈んだ声がした。 「真田さん、私は木星の帰りに怪しい艦影を見ました」 真田と相原が驚いて振り返ると、そこには島大介が暗い表情で立っていた。 宴会はいつの間にか不審機についての報告会に変わっていた。輸送船団勤務の者たちからの情報を総合すると、平面的なシルエットの不審機や、謎の艦船は、数か月前から太陽系のあちこちに出没しているらしいということ、そして、各自がすぐに上層部に報告しているのに何らの反応もないということが判明した。古代はさらに怒りをつのらせた。 「これだけ不審機が目撃されているのに、地球防衛軍として何らの手を打たないというのはどういうことなんですか!いったい、長官や参謀本部は何を考えているんだ!」 「政治の事情というやつだ」 真田は静かな声でそう言うと立ち上がり、周囲を見回して言った。 「みんな、聞いてくれ。実は不審機や謎の通信だけじゃない。亜空間を超光速で地球に向けて航行中の巨大な謎の物体が発見されているんだ。観測直径は優に1万キロを超える。それが、あと2か月余りで地球に到達する」 広場は水を打ったように静まり返った。真田は続けた。 「明日の午後、政府の防衛会議がある。相原が記録したメッセージのデータを解析したら、俺は防衛会議でいままで判明したことを詳しく報告するつもりだ。しかし、政治的状況からすると、そうしたところで政府が迅速な対応をとる可能性は低いと思う。ヤマトの元乗組員として、地球がいま、新たな危機に見舞われているということを知っておいてほしい。そして、一人一人が今後何をできるのかを考えておいてくれ。ただ、不審機や物体接近の件は戦時中の機密情報と同レベルのものとして扱ってもらいたい。俺からの頼みは以上だ」 その時、南部が立ち上がって言った。 「真田さん、明日の防衛会議が終わった後、地下都市にある地球防衛軍の旧司令部にみんなで集まりますから、そこで防衛会議の結果を教えてもらえませんか。こんなに重大な事態になっているのに、おれたち一般の軍人にすら何も情報が来ていないなんて、しかも、政府や参謀本部が情報を掴んでいるくせに動く意思がないだなんて、全く信じられません。これじゃ、ガミラスの残党だろうと、ほかの敵性宇宙人だろうと、地球を根こそぎ侵略し放題です。なあ、みんな!」 元乗組員たちは、一斉に同意の声を上げ、こぶしを突き上げて叫び始めた。 |
ぴよ
http://yamatozero.cool.ne.jp/ 2010年04月06日(火) 00時21分03秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.3 煙突ミサイル ■2010-10-07 21:00 ID:t.3XWgQsmHk | |||||
なんだかんだ言っても相原君は優秀なんだな〜。 だからヤマトに乗ったんだろうけど、やはりなんというか、 天性の耳の良さ、というか感覚的に鋭いのではないかと。 じゃないと第一艦橋でずっと勤務なんか、できませんよねぇ。さすがだわ。 |
|||||
No.2 Alice ■2010-04-16 13:58 ID:HvFArhxOHew | |||||
相原君が今の任務に就いているのは、しっかりカウンセリングを受けて問題なしと判断されからだと思いますが、まだ気にしていたんですね、艦外脱走の件。 テレサの像がテレパシーで伝わってくれば、若い男の子としてはいろいろ困るでしょうね(^^ゞ 「政治の事情というやつだ」という真田さんのセリフ、若い子たちとは対照的で、大人っぽくてかっこいい! |
|||||
No.1 メカニック ■2010-04-06 16:33 ID:LMMpoHtVW8U | |||||
相原さんも謎の通信を気にはしていたのですね。このあと通信の分析と防衛会議を経てヤマト出撃ですね。 ユキちゃんのマリッジブルーとはどんなドラマになるのだろうか。 今後の展開が気になります(^^) |
|||||
総レス数 3 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
削除用パス Cookie |