第1章 朝 /sect.3 |
翌日は爽やかな五月晴れになった。英雄の丘近くに作られた戦没者慰霊教会には、朝早くから続々とヤマトの乗組員達が集まり、まるで戦友会のような様相を呈していた。 「加藤じゃないか!久し振りだなあ」 古代は教会の前の人込みの中に加藤の姿を見つけ、駆け寄った。加藤は手を差し出しながらにこっと笑った。 「古代!この野郎、元気そうだな。…何だ、ちゃっかり雪と二人か。おまえたちの式は秋ごろだっけ」 古代は加藤の手を握りながら照れ笑いした。 「うん。沖田艦長の命日の三日後にしたんだ」 「9月8日か。また真田さんに頼んで何か新型機のテストでも入れないといかんなあ」 加藤は頭をかいた。雪はころころと笑った。 「加藤くん、今日はそれで地球に来られたのね!じゃ、私からも緑に頼んでみるわ。時期を合わせて何か開発しておいてもらうように」 「そうだな。あの真田さんが緑と結婚したんだ。頼めば二人でどんな新兵器でも開発してくれそうな気がするよ」 それを聞いて、周囲にいた者は一斉に笑い出した。その時、教会の鐘が鳴り始め、人々は教会の中へと入っていった。 教会の祭壇の前に続く通路の両側には、白い花で飾った手すりが並べられている。ステンドグラスから降り注ぐ光は、七色の虹となって通路を彩っていた。手すりに沿って並んだ人々は、しんとして通路の端にある扉を見守っている。その時、静寂を破ってオルガンの演奏が始まり、ゆっくりと扉が開いた。その瞬間、声にならないどよめきが会衆の間を駆け抜けた。 緑は純白のドレスの裾をひき、白い薔薇のブーケを手にして、地球防衛軍の礼服を着た真田の腕に手を預けて立っていた。すっきりとした細身のドレスには袖がなく、横長に開いた襟ぐりと体の線に自然に沿う身頃、ゆるやかに広がる裾が優雅である。長い黒髪は結い上げられて白薔薇のつぼみが飾られ、そこから長いレースのヴェールがふわりと流れ落ちて、ほっそりした体を包んでいた。純白の衣装に劣らぬほど白い肌に、切れ長の黒い瞳がさえざえと美しい。その清らかで気品ある姿は、夜空に浮かぶ月のように、見る者を魅了した。緑は真田の腕にすがって、静かに祭壇の前へと進んでいく。 化石したかのように黙って、ただじっとその姿をみつめていた根岸は、緑が通り過ぎた後にかすかな薔薇の香りが残っているのを感じて手すりを強く握りしめた。 (本当に、もう真田さんのものになってしまったんだな。…さよなら、緑。あきらめたつもりだったけど、やっぱり悔しいぜ。訓練学校のころ、おれがもっと強気に出ていればよかったのか?) 惜しみなく拍手している人々の中には、根岸と同じように、辛そうな表情でじっと緑を見送っている若者たちが相当数混じっていた。それを見た吉川は懸命に自分に言い聞かせた。 (俺だけじゃない。辛いのは俺だけじゃないんだ。…8か月間悩んできたけど、それも今日で終わりにするんだ。今度緑に会う時は、笑って会えるようにならなきゃ) |
ぴよ
2010年03月24日(水) 23時42分40秒 公開 ■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 煙突ミサイル ■2010-09-02 14:16 ID:t.3XWgQsmHk | |||||
素敵だなあ、真田さん・・・。 あ、こういう時は花嫁さんを褒めるんでした! でも吉川君の気持ちが痛いほどわかるなあ・・・、しみじみ、ぐすん。 ほんと、「お幸せになっちゃってください」! |
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No.2 Alice ■2010-04-05 12:25 ID:RsZmjQ4olvo | |||||
ステンドグラス、綺麗ですね。 でもそれにも増して神々しいほど美しい緑と凛々しい真田さん。 もうホントに、どうぞお幸せになっちゃってください!…って感じです。 悔しいほどお似合いだよ、お二人さん。 雪ちゃんのシンプルなドレスもいい感じですね。(裾が細めだから、きっとめくられないし(^^ゞ) |
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No.1 メカニック ■2010-03-27 11:01 ID:AtHRGSqYRU2 | |||||
真田さん…キマってます! 緑…綺麗だ! 根岸くん、吉川くん…私も同じ気持ちです。 でも、今日は笑顔で新たな門出を祝います。お二人ともお幸せに! ぴよさんの研究熱心さには脱帽です(^^) |
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