第7章 旧友〜イスカンダル /sect.3


 
 二人は真田の運転する反重力カーで王宮に向かった。その途中で、守はふと気付いて言った。
「しかし、医者でもないおまえが、急に重傷者のことを言い出したのはなぜだ?メカの話だからか?」
 真田は運転しながら答えた。
「おれの部下でかなり容体の悪い子がいてな。…ずっと気にかかっていたんだ」
「子、ってことは女の子か。ふーん、さては」
「何だよ」
 真田は守をちらっと見た。守はその表情を見て意味ありげににやりと笑った。
「惚れたな、真田」
「馬鹿を言え!そんなんじゃない!」
 むきになって怒鳴る真田を見ると、守は大声で笑い出した。
「あはは。…おれとおまえのつきあいだぞ。分かるさ。まじめいっぽうで堅物だったおまえに、そんな相手ができたとはな。…美人か」
 真田は黙ったままわざと急加速した。守は笑いながら帽子を押さえた。
「まあいいさ。おれも今新しい恋をしてるところだからな」
「恋って…おまえ、まさか」
「そのまさかだよ。今度はいままでのおれの相手とはレベルが違うぞ。おまえの恋人がいくら美人だって、スターシャにはかなわんだろう。お、むっとしたな」  
「うるさいぞ、古代」
「いいよ。そのうち紹介してもらうから。あの装置を使えば、その子もすぐに全快するさ。とにかくすごい効き目なんだ」
 その言葉に、真田は急に振り返った。
「本当だな。…実は大量に被曝して骨髄に悪性腫瘍ができている。合併症も多い。艦医の佐渡先生は絶望だと言ってた。それでもなんとかなるか」
 真田の目の真剣な色に、守はシートに座り直した。まじめな口調で言う。
「多分大丈夫だと思う。おれも似たようなものだったらしいからな。…しかしその子、いったい何をしてそんなになったんだ。ガミラスは原則として遊星爆弾以外に核兵器は使ってなかっただろう。…おい、前を見て運転しろよ」
 じっと守の言葉を聞いていた真田はわれに帰って前を向いた。輝く王家の塔はすぐそこまで近づいてきている。
「ああ、すまん。…ガミラス艦がヤマトに接舷して自爆しようとしたことがあったんだ。その時、あいつはヤマトに打ち込まれた固定用のアンカーを爆破するために一人で艦外へ出ていった。そのおかげでヤマトは助かったんだが、あいつ自身は爆破の時に吹き飛ばされて、爆発したガミラス艦の動力炉の放射線で被曝したんだ」
「そうか。…おまえたちも大変な戦いをしてきたんだな」
 反重力カーは王家の塔についた。真田はふわりと車を停止させた。目の前に王宮への階段がある。真田は守の顔を見てしみじみと言った。
「たしかに大変だったよ。しかし、ガミラスは滅びた。コスモクリーナーはここにある。地球はこれで助かるんだ。…そのうえ元気なおまえに再会できて、重傷の仲間も助かるという。今日ほど生きていてよかったと思った日はないよ」
 
 入ってきた守の姿を見たとたん、スターシャは飛ぶように駆け寄った。
「マモル…!戻ってくれたのね、マモル!」
 その手放しの喜びように、二人は用件を切り出せずにいた。スターシャは守の前に立ってその顔をうっとりと見つめていたが、ふと振り返ると言った。
「真田さん、でしたね。礼をいいます。ありがとう、マモルを連れてきてくれて」
 その言葉に、守はようやく口をはさんだ。
「スターシャ。…真田はおれの古くからの友達なんだ」
「そう。良かったわね、お友達がヤマトで来ていて」
 そう言いつつも、スターシャは守の顔から目を離さない。それはまるで、じっと見ていないと守がどこかに行ってしまうと思っているかのようだった。見つめられた守はふたたび黙り込む。真田はその光景を見て思った。
(古代のやつ、さっきは調子のいいことを言ってたけど、これは相当本気だな。…昔、訓練学校のころに彼女をとっかえひっかえしていた時とは態度が違うぞ)
 しかし、このままではいつまでたっても肝心の話をできそうにもなかった。真田は遠慮がちに言った。
「スターシャさん。すみません。さきほどいろいろお願いしたばかりで、大変恐縮なんですが、実はもう一つご好意に甘えさせていただきたい件があります」
 スターシャは夢からさめた人のような顔で真田を見た。
「古代があなたに治療していただいた医療機械を、ヤマトの負傷者のために貸していただきたいんです。ヤマトには、これまでの戦いで傷ついた者が大勢います。その中には命の危ない者もいるんです。まことに厚かましいお願いですが、どうかその者たちを治療させて下さい」
 スターシャはほほえんだ。
「そんなことなら簡単です。マモルのお友達の頼みですもの。…王宮の倉庫の中に、救急治療用の医療機械があります。小型ですが、性能はここのものと変わりませんわ。救命艇に乗せてあるのですが、その救命艇ごと差し上げます。お持ちなさい。使い方は簡単です。治療したい人をベッドの上に乗せてボタンを押すだけですから。何かわからないことがあったら、王宮のコンピュータで調べて下さいね。さっき教えたとおり、音声認識型ですから、話しかけて尋ねれば答えます。これでいいわね、マモル」   
「ああ。ありがとう、スターシャ」
 守は言った。スターシャは守の顔を見上げながら、その士官服の胸のボタンをいじっていて、まだまだ放しそうもない。真田は内心苦笑しながら、まじめな顔で言った。
「ありがとうございます、スターシャさん。では、私はこれで失礼します。さっそく救命艇をお借りしていきます」
「ご苦労でした。差し上げたのですから、返さなくてよいのですよ」
 スターシャはうわのそらで言った。守も一瞬真田を見てうなずいたが、すぐにスターシャに目を戻す。真田は軽く敬礼して部屋を出た。
 
 イスカンダルの医療機械は、素晴らしい性能だった。外科治療が必要な者が診察用ベッドに乗ると、ランプがついて外科用ベッドに移動させられ、自動的に手術が行われる。そうでない者はベッドからカプセルに移動させられ、その中でオーバーテクノロジーの力によって癒されていくのだった。佐渡は推進装置を取り外したイスカンダルの救命艇を医務室の隣の空いていた区画に運び込み、その周囲にベッドを並べ、臨時の病室に改造して、重傷の者から順に治療を受けさせていた。ガミラス本星の決戦で重傷を負った者たちが次々に治っていくのを見て、佐渡はつぶやいた。
「医者としては複雑な心境じゃね。怪我人がどんどん治るのは本当にうれしいが、これじゃあ、わしは失業じゃわい。…こんな機械があるのに、なんでイスカンダル人はみんな死んでしまったのかのう」
 雪はこれから治療を受ける患者を救命艇に乗せたり、治療のすんだ者を外へ案内したりしていたが、振り返ると言った。
「スターシャさんの話では、イスカンダル人には弱いながらも超能力のようなものがあるそうです。イスカンダル人はとても長命らしいのですが、超能力で太陽の寿命が残り少ないことを知った人々は、かなり以前から、子孫の運命を考えて、子供を全く作らなくなってしまったのだそうです。それで誰もいなくなったということでした」
「ふうん…われわれやガミラス人とはえらい違いじゃな。消極的というか、あきらめが早いというか…」
「そうですね。ほかの星に移住することを考えないなんて、私にも信じられません。予知能力があるといっても、緑とはずいぶん違いますね」
 雪はそう言うと、ストレッチャーに乗せた次の患者を押して救命艇に向かった。緑はいまカプセルの中で治療を受けている。佐渡はひとりごちた。
(これで真田くんもやっと安心するじゃろう。まったく、あの二人はどうなっとるのかね。お互い正直に言ってしまえばいいようなものを。…艦長が真田くんに変にクギをさしたりしたのがいかんのだ)
 
ぴよ
2001年11月11日(日) 22時13分08秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
艦長ご指摘の守にいさんの性格ですが、広川太一郎さんの声のせいか、どうも私の中では軽いイメージが強くて、守ファンの方のお怒りを買うのではないかといささか心配しております。
なお、7−2冒頭の技師長のユキに対するセクハラシーンは、ご推察のとおり、故意に飛ばしたものであります(笑)。

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守兄さんは、訓練校の時ナンパなやつだったんですね。技師長とは大違いだ!長田艦長に共感し、ぴよさんの世界にハマリたいと思います。そろそろ藪は解凍されるのかな? なんぶ ■2001年11月13日(火) 15時17分35秒
古代守、1のサーシャは、本編での登場場面が少ないだけにファンの想像がいろいろとあるし、それは人それぞれでいいんじゃないでしょうか。ぴよさんの作中ではぴよさんの人物設定にひたらせていただきます(^^)。僕の○×はこうだ、私の△☆はこうだというのにいちいち合わせてては良い作品は生まれませんしね(^^)まず、ご自分が納得できるということを大事にされてる今のスタイルでいいんだと僕は思います。最終章まで走りぬいてください。応援します。 長田亀吉 ■2001年11月12日(月) 22時43分02秒
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