第7章 旧友〜イスカンダル /sect.1
 
「ようやく完成したよ。とりつけていいか。具合をみてもらいたいんだ」
 真田は緑のベッドの傍らで義手を入れた箱を見せると言った。…緑は七色星団の決戦から四十日余りが過ぎた後、ようやく無菌室から隔離病室に移ることを許可され、それ以後は真田の時と同じような入院生活を送るようになっていた。真田は面会のために滅菌ずみの衣服を着ていたが、その顔には疲労の色が濃く、目の下にはくっきりとくまが浮き出している。ヤマトは今から二日前、ガミラス本星で最後の激烈な戦いを終えたばかりで、真田はその戦闘後の補修指揮のために一睡もしない日々を送っていたのである。緑は真田の顔を見るとベッドから体を起こそうとした。真田が素早く手で制する。緑はその手に自分の右手を添えた。
「こんなにお忙しい時に、私の腕のことなんて…どうか少しでいいからお休みになって下さい。このままではほんとうにお体がもちません。こうして面会に来ていただくだけでも、大変なご負担をおかけしているのに…」
 けんめいに言葉を続けているうちに、緑の眼には涙がうかんできた。真田は優しく微笑すると緑の頬に軽く手を触れた。
「心配するな。おれは来たいからここへ来てるだけだ。負担なんかじゃない。それにみんなももう補修は慣れてるからな。俺がついてなくても、ちゃんとやれるよ。…この義手は本当は四日前に完成していたんだが、ガミラス本星にひきずりこまれて戦うことになったせいで、ずっと来られなかったんだ。約束をやぶってすまん。せっかく佐渡先生に断端神経のサイボーグ化手術をしてもらったんだし、早く取り付けたほうがいい。おまえの右腕と同じようにきれいに仕上げるために、けっこう苦労したんだぞ」
 真田はそう言うとにっこり笑った。緑は小さくうなずいた。真田は壁面のモニターを引き出しながら言った。
「艦外監視モニターでイスカンダルが見られるんだ。作業の間、見てるといい。ガミラスのすぐ隣に浮かんでいるとは驚きだったが…でも、びっくりするぐらいきれいな星だぞ」
 緑はモニターをじっと見つめた。そこには、青く美しい惑星が映っていた。海陸比は九対一ほどで、星のほとんどが真っ青な海に覆われている。そこに緑したたる島が浮かんでいる様子は、うっとりするような眺めだった。真田は緑のベッドの横にひざまずくと取り付けを始めた。
「本当は昨日からずっとスターシャの誘導電波が入ってるんだが、ヤマトの装甲板がボロボロでな。イスカンダルの大気圏に突入するのも危ないような状態だったんだ。それで突貫工事をしていたのさ。そろそろ外回りは終わるから、今日当たりイスカンダルへ着陸できると思う。着陸の様子をモニターでしか見せてやれなくて残念だが、離陸の時は展望室に行けるように早く良くなるんだぞ」
 細かい作業をしながら真田は明るい口調で話し続けた。…しかし、真田の心の中は、この病室に来る前に確認した緑の医療データのことで一杯だった。免疫反応の低下などの急性症状はいったんおさまったものの、今度は深刻な合併症の兆しが現れ始めていたのである。その中でも、骨髄の腫瘍反応ははっきりと目立っていた。その時、緑が急に口を開いた。
「技師長、私、そろそろ退院してはいけないでしょうか」
「何言ってるんだ。だめに決まってるだろう」
 真田は驚いて顔を上げた。緑はじっと真田をみつめている。
「でも、こうして腕も作っていただきましたし…。皆さんが忙しく補修している時に、いつまでも私だけ入院しているわけにはいきません。技師長もあの時、義肢ができたらすぐ退院なさったでしょう」
「馬鹿いうんじゃない。おれの時とは浴びた放射線の量がけたちがいなんだ。一緒にできるわけないだろう。無茶いわずにゆっくり治療しているんだ」
 緑は目を伏せると少し起こしていた頭を枕につけた。真田は胸を痛めながら言った。
「…おれがもっと早く助けてやることができれば良かったんだ。発見が遅れたためにおまえを余計に被曝させてしまった。許してくれ。もう佐渡先生から話があったかも知れんが、DNAに損傷が出ているそうだ。だから…」
 そのとき、緑が顔を上げて真田を見た。もの言いたげな大きな黒い瞳がすぐ目の前にある。真田はそれ以上続けられなくなって言葉を切った。緑は静かに言った。
「許してくれだなんて、おっしゃらないでください。命を助けていただいたのに…。起爆装置のスイッチを入れた時、こうなることは覚悟していました。それに、私は将来誰かと結婚するということはもともと考えていませんでしたから」
 緑は少しほほえんだ。
「…私はこのままずっと技師長の下で開発や補修の仕事をしていたいんです。早く退院できるように頑張りますから、空間磁力メッキの設計と調整、どうかお手伝いさせて下さいね」
「ああ。待っているからな」
 真田はうつむいて腕の接合部をのぞき込みながら優しく答えた。しかし、その顔は苦痛にゆがんでいた。病室に入る前に会った佐渡の暗い表情が浮かぶ。モニターのイスカンダルは、ただ美しく輝いていた。


ぴよ
2001年11月08日(木) 00時18分17秒 公開
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■作者からのメッセージ
第7章の始まりですが、残念ながらまだイスカンダルに着陸できておりませんので、守にいさんの登場は次回からとなります。いましばらくお待ち下さい。なお、ご参考までに申し上げますと、七色星団からイスカンダルまでの所用日数は、約90日前後です。

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大丈夫です、僕も好きですから(笑) 長田亀吉 ■2002年04月07日(日) 22時23分41秒
いつの頃からか、緑がいとおしく想うようになってきました。是非とも緑を元気にしてあげてください!お願いします。VIEDECKで拝見させていただきました。ありがとうございました。アッ!このような所でお礼を言ったりしたら、冷凍刑にっ・・・。艦長ゴメンナサイ なんぶ ■2001年11月08日(木) 14時40分26秒
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