第6章 ドメル艦隊、そして /sect.4

 決戦の日はまたたく間におとずれた。沖田は全乗組員を集めて檄を飛ばし、水さかずきをかわさせた。そして間もなく、敵機の機影がレーダーに映った。総員戦闘配置の命令が下され、ブラックタイガーが出撃する。最初に襲ってきたのは敵戦闘機隊だった。案の定、敵機はヤマトのレーダーをしつこく狙ってくる。加藤はくさび形陣形をとって部下とともに敵戦闘機のただ中に突っ込んだ。敵機のレーザーがブラックタイガーの機体の周囲で虹色の霧となってはじけ散る。エネルギーシールドはその有効性をはっきりと示していた。
(緑、助かるぜ)
 加藤は逃げていく敵機にビームを打ち込むと機首をめぐらせた。パスファインダーから送られてくる豊富な情報のおかげで、ヤマトの後方に新たな敵が出現するのがわかったのである。
 ドメルの瞬間物質移送機によりヤマトの後方に出現した爆撃機隊は、編隊を組んだまままっすぐにヤマトにむかった。しかし、その時異変が起こった。…十数機の爆撃機が一斉に爆発したのである。ヤマトの後方にあらかじめ展開されていたアルミネットにひっかかったのだった。機体に搭載されていたミサイルは爆発の規模を大きなものにし、そばにいた別の爆撃機も飛び散った破片によって破壊されていく。そこに、ブラックタイガーが襲いかかった。真田によって強化されたパルスレーザーもガミラス機に激しい掃射を浴びせる。ヤマトの周囲は、オレンジ色の爆発に包まれていた。
 
「第一砲塔、損傷!」
スピーカーから叫び声が響く。緑は中央コンピュータ室の武器管制コンピュータを一班Dのメンバーとともに担当していた。損傷による回転速度の低下に合わせて照準の誤差修正を変更する。なすべき作業は多く、四人のスタッフは懸命に作業を続けていた。その時、激しい衝撃が襲った。四人は椅子から投げ出された。
「うわあっ!」
「何だ、この衝撃は…!」
 やがて、不快な振動音が隔壁から伝わってきた。艦体に異常が発生していることは間違いない。起き上がって艦内チェックモニターを検索した緑は息をのんだ。…ヤマトの波動砲発射口に巨大なミサイルがめりこみ、それが回転しながら次第にヤマトの内部へと進んでくる。ドリルミサイルの先端は波動砲の圧力弁を破壊し、波動砲制御室へ突き出していた。その時、モニターに真田とアナライザーが映った。二人は素早く作業台に乗るとリフトで上昇し、ドリルミサイルの先端部にもぐりこんでいく。緑は真っ青になって立ち上がった。そのとき、緑の視界が暗黒に包まれた。
 …星すらも見えない闇の中を白い円盤が進んでくる。円盤はヤマトの第三艦橋の真下までくると停止し、八本のアンカーをヤマトに打ち込み、四本の固定用アームを伸ばして第三艦橋にしっかりと艦体を固定した。そして、円盤は大爆発を起こした。
 気がつくと緑は床に膝をついていた。視界の中にはまだ円盤が爆発したすさまじい光があふれている。
(あの爆発を止めなくては…アンカーとアームを切ることが先決だわ。でも、間に合うだろうか…着底から爆発まで、二分ぐらいしかなかった)
 緑は顔を上げた。吉川が心配そうにかがみこんでいる。大石はモニターでドリルミサイルの状況を見ていた。大石が回線を合わせたのか、真田の声がスピーカーから聞こえてくる。
『こいつだ。わかったぞ。こいつを逆転にセットすればいいんだ』
 その声が、緑の心を決めた。
「吉川さん、パスファインダーはあと何機残っていますか」
「あと二機しかない。一機は出動中だ」
「この後、たぶんドメルの円盤が襲ってきます。ヤマトを道連れに自爆しようとしているんです。追いつかれないようにレーダーでしっかり敵を把握して逃げないと大変なことになります。島さんと森さんにそう伝えて下さい。いま出動中のパスファインダーが破壊されたら、すぐに最後の一機を出撃させるようにお願いします」
「おまえは?」
「私は第三艦橋へ対空監視に行ってきます。…大石さん、よろしいですか」
「わかった。気をつけてな」
 緑は立ち上がった。背後から真田の声が聞こえる。
『そいつだ。そのコードをつなげ』
 緑は手を握りしめるとコンピュータ室から駆け出した。
 
 真田が逆転させたドリルミサイルは、ドメル艦隊の中央で爆発した。四隻の空母はその爆発に巻き込まれ、紅蓮の炎にのみこまれていく。ただ一隻残ったドメルの指令船…白い円盤は、まっしぐらにヤマトめがけて突っ込んできた。吉川から報告を受けていた島は必死でヤマトを操る。
「両舷全速、面舵一杯!」
 しかし、ドメルの円盤はおそるべき速さで迫っていた。雪は額に汗を浮かべて叫んだ。
「だめです、完全にくっついています!」
 沖田は前方をにらんだ。暗黒星雲がすぐそばまで迫っている。
「よし、かまわん。暗黒星雲へ突っ込め」
 暗黒星雲へ突入すると、ヤマトを濃いガス体が包んだ。その時、ドメル艦の放った爆雷がヤマトのパスファインダーを破壊した。レーダーが真っ白になる。
「次のパスファインダーを発進させろ、急げ!」
 真田がインターコムに向かって叫ぶ。島はやみくもにヤマトを走らせていた。
 
 緑は第三艦橋のエアロックにいた。隊員服にヘルメットとブーツ、手袋をつけた簡易装備で、背中にハードスーツの姿勢制御用バックパックだけを背負っている。わずかの時間に全てのアンカーを切るためには、動きの鈍くなるノーマルスーツやハードスーツを着るわけにはいかなかった。緑の手には携帯用爆弾四個がすぐに取り出せるようセットされたキャリーアームと、大型のレーザーバズーカがある。
(アンカーのワイヤーはこのバズーカで切れるけれど、アームは爆弾で破壊するしかないわ)
 緑は手首に取り付けたタイマーと、起爆装置を見た。タイマーは一分四十秒にセットされている。
(時間内になんとしても爆弾をセットしなくては…)
 緑は外部監視用の窓から外を見た。近づいてくる白い円盤が見える。円盤はみるみるうちにヤマトに近づいていた。緑はエアロックのスイッチを押して外に出た。バズーカのベルトを肩に通して第三艦橋の手すりにつかまる。ドメル艦はもう目の前にいた。そして、円盤からアンカーが発射された。緑はバーニアを全開して円盤に向かった。
 
 最後のパスファインダーが発進し、雪のレーダーに映像が戻った。それを見た雪は悲鳴を上げた。
「真下にガミラス艦が!」
 その時、ヤマトのメインスクリーンにドメルの顔が映った。
『あなたが沖田艦長か…』
 苦衷の表情を浮かべたドメルは沖田と会話を始めた。第一艦橋のスタッフは固唾を呑んでその成行きを見守っている。
 
 緑は四つの爆弾を取り付け終わった。バズーカを構えて発射する。ワイヤーは太いレーザーに貫かれて次々にはじけ飛んだ。手首のタイマーは残り時間があと二十秒しかないことを示している。緑は移動しながら通信機のスイッチを入れた。
 
 沖田とドメルの会話は平行線のまま終わった。
『あなたのような勇士と戦うことができて、光栄に思っている。…偉大なるガミラスと地球に、栄光あれ!』
 そう叫ぶと、ドメルは背後にある装置に手を伸ばした。映像が途切れる。沖田は艦内オール回線のスイッチを入れた。
「ドメルの船は自爆するつもりだ。艦底部の乗組員は上部に避難せよ!」
 その時、第一艦橋に緑の声が響いた。
『これよりドメルのアンカーを爆破します。全速発進で振り切って下さい』
 声の背後に流れる独特のノイズは、宇宙空間からの通信であることを物語っている。コンソールに向かっていた真田の顔色が変わった。
 
 緑の手首のタイマーはゼロを示している。ドメル艦がいつ爆発してもおかしくない。この位置ではアームにしかけた爆薬の爆発に巻き込まれるおそれがあったが、もはや一刻の猶予もならなかった。緑は目を閉じて起爆スイッチを押した。真っ白な光が瞼を焼き、すさまじい爆風が体を吹き飛ばす。永遠に続くかのようなその瞬間、緑はいつか第三ドックで見た真田の笑顔を思い出していた。そして暗黒が訪れた。


ぴよ
2001年10月30日(火) 21時56分17秒 公開
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緑〜!!! もし私も第三艦橋にいたらもうこれしか言えません。 メカニック ■2010年02月06日(土) 10時21分17秒
え゛〜っ!!!!緑ちゃん、宇宙の彼方に吹き飛ばされちゃうんですか??? それにしても彼女は18歳だというのに、自分の頭で考えてしっかり行動を起せるすごい子ですね。最近は、老若問わず指示待ち組が多く、自分で行動を起せる人は、なかなか貴重な存在だと聞きます。モノトーン系のイラストもナイス、彼女の表情が大人びてきましたね。 Alice ■2001年10月31日(水) 09時45分31秒
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