第6章 ドメル艦隊、そして /sect.3


 
 第一艦橋では驚くべき情報が待っていた。敵将ドメルが、ヤマトに挑戦状を送りつけてきたのである。どうしてもイスカンダルに行きたいというのなら七日後に七色星団においてわが軍と艦隊決戦をせよ、というその内容は、艦橋に議論を巻き起こした。真田は主戦論を唱える古代を懸命にいさめ、島も真田を支持したが、沖田が艦橋にいる以上、全ては沖田の意思にかかっていた。…真田は緑の見た映像について沖田に報告し、慎重に判断するよう求めたが、結局、沖田はドメル艦隊との艦隊決戦に赴くことを決定し、全艦に決戦準備を命じたのである。真田は第一艦橋の自分のコンソールで七色星団に関する情報を確認し、暗澹たる心境になった。緑が見たというオレンジ色と緑色の星…それは、七色星団の星のうちの二つに間違いなかった。何とかしてガミラスの艦載機による奇襲攻撃を防がなくてはヤマトに勝ち目はない。
 
 ヤマトの艦内では、乗組員たちが決戦に備えて懸命に整備や訓練に励んでいた。艦底部にある格納庫では、ブラックタイガー隊員たちが念入りにそれぞれの愛機を整備している。根岸はハンガーの上段で自機の電気系統をチェックしていたが、足音にふと顔を上げ、眼を見開いた。緑が両手で何かの装置を持って駆け込んでくる。隣のハンガーにいた隊長の加藤も足音に気付いて機体から顔を突き出し、陽気に声をかけた。
「よう、緑じゃないか!何だい、そのメカは。また何か新兵器でも開発したのか?」
 緑はハンガーの下で立ち止まり、加藤を見上げると声をはりあげた。
「はい。このあいだ防磁フィールド発生機を開発したとき、違う機能があることがわかったので、技師長がそれを発展させてお作りになったんです。実戦での効果はまだテストしていませんが、敵のレーザー攻撃に対するエネルギースクリーンとして使えると思います」
 ブラックタイガー隊員たちが一斉にハンガーから顔を出した。加藤が尋ねる。
「エネルギースクリーンっていうと、バリヤーみたいなもんか?電力をくうのか、それ」
「だいたい、同じようなものです。機体の運動性に影響するほどのエネルギーは消費しない筈です」
 緑の言葉に、隊員たちは口々に叫んだ。
「本当か、そりゃ」
「そんなすごいメカがあるなら、ぜひ俺の機体にも積ませてくれよ」
「まさかその一個だけしかないとかいうんじゃないだろうな」
 緑は笑いながら言った。
「ご希望ならいくらでも作れます。とりあえず、加藤さんに試していただければと思って持ってきたんです。…決戦まで、まだ日がありますから」
 隊員たちはヒューヒューと歓声を上げながら顔をひっこめた。加藤はほくほくしながらハンガーの上段にあった機体を降下させた。
「そう来なくっちゃ。すぐに取り付けてみてくれよ。へへっ、バリヤーなんて、まるでマンガみたいだぜ」
 加藤機が動き出すと、隣にあった根岸の機体も連動して一階に降りる。取り付けをしようと近づいてきた緑は根岸の姿を見て会釈した。そして緑は、加藤と根岸に向かって低い声で囁いた。
「加藤さん、根岸さん。…今度の決戦の時、どうかヤマトからあまり離れないで下さい。敵はワープ機能のある艦載機でヤマトに奇襲をかけてくると思います。ブラックタイガーが離れたら、必ずそこを狙われます。技師長はいま、パルスレーザーも強化なさっていますが、パルスレーザーには死角が多いですから」
 加藤の顔が急に引き締まった。加藤も根岸や古代と同じく、緑と同期だったのである。
「また、アレを見たのか。…ずいぶんやられていたか、ヤマトは」
 緑はかぶりをふった。大きな目で二人を見つめる。
「大丈夫だと思います。でも、ヤマトの運命はみなさんの力にかかっています。ですから、みなさんが少しでも安全に戦えるように、この装置を…。すぐに取り付けますから、少し待っていて下さいね」
 そう言うと緑は加藤機によじのぼった。座席の後ろに装置を据え付けにかかる。工具を取り出して作業を始めた緑に、根岸は押さえた声で言った。
「緑。敵機は何機ぐらいいた」
 緑ははっとして根岸を見た。顔が青ざめ、黒い瞳がひときわ大きく見える。根岸は緑の肩を押さえた。
「大丈夫だ。隊長と俺たちで敵は必ず撃墜する。でも、敵の総数や戦力がわからないと適切な陣形を決められないんだ。教えてくれ」
 緑は唇をふるわせてじっと根岸の顔を見ている。それを見た加藤は開いた風防に手をかけて乗り出すと、緑の耳元に口を寄せて、いたずらっぽく囁いた。
「俺たちに気を使わなくていいんだぜ、緑。敵機の数を聞いてびびるような奴はブラックタイガー隊にはいないから。だいたい、いつだって敵のほうが多いんだからな」
 その言葉に、緑はようやく口を開いた。その声はささやくように低かった。
「…百機は軽く越えていました。戦闘機と、雷撃機と、急降下爆撃機が三分の一ずつぐらいいたと思います。ヤマトの上方から後方にかけてワープアウトしてきて、二手にわかれて包囲攻撃をかけていました。…この映像のことは、他言してはいけないことになっていますが、あえてお話ししました。どうか加藤さんのほうで適切な作戦を立てて、少しでも有利に戦いを進めて下さい。お願いします」
 加藤は一瞬真剣な表情になったが、すぐに笑顔に戻って言った。
「ありがとう。教えてもらって本当に助かるよ。まかせとけ、ガミラス野郎は俺たちが蹴散らしてやるから」
 緑はにっこりと加藤にほほえみ返して、再び装置の取り付けにかかった。加藤は根岸の肩に手を回し、低い声で陣形に関する相談を始めた。
 
 その夜、加藤のキャビンを突然真田が訪れた。
「すまんな、加藤。休み時間に」
「いえ、かまいませんよ。それより、技師長。あのメカはすごいですね」
 真田の目が笑った。
「今日は貴重な意見をありがとう。おかげでうまく改良できたよ」
「みんな大喜びですよ。でも、突貫工事で全員の機体に取り付けてもらって、技術班の人たちには悪いことをしましたね」
「いいんだ。それより加藤、実は聞いてもらいたい話がある」
「何です?」
「今度の決戦のことだ。艦長は、確たる根拠のない情報で乗組員の不安を煽ってはいけない、と言っていたが、おれはブラックタイガー隊には絶対に伝えておくべき情報だと思うんだ。実は…」
「敵艦載機のことでしたら、今日、緑が教えてくれましたよ」
 真田は驚いて顔を上げた。加藤はほほえんだ。
「百機以上の爆撃機がワープで現れるそうですね。…あいつ、俺たちのことを心配して教えにきてくれたんです。安心して下さい。対策は立てました。皆にもよく話してあります」
「そうか…」
 真田は一瞬視線を宙に浮かせたが、すぐにわれに帰った。
「それなら話が早い。端末を借りていいか」
「どうぞ」
 真田は加藤の端末を操作して図面を呼び出した。
「見てくれ。今度の戦闘で、これを敵艦載機対策に使おうと思う。アルミネットのトラップだ」
 加藤は画面を覗き込んだ。そこには、四隅に小さな装置を取り付けられた巨大な網が映っていた。
「ネットのフィラメントはテグスぐらいの太さだ。網目は一メートルの大きさで、レーダーには反応しない。隅についているのは反重力感応器だ。これで艦内から操作して動かせる。…これをヤマトの周囲数か所に広げておくんだ」
「こりゃあ…高速で飛んでいてこれにひっかかったらえらいことになりますね」
「そうだ。これに追い込めば、多くの敵を一度に倒せる。ただし、ブラックタイガーがひっかかっては話にならんから、反重力感応器に特殊な発信器をつける。その信号でトラップの場所を感知してよけてほしいんだ。識別用のプログラムはすぐに入力しておくよ。それと、ネットの操作もきみの隊員に頼みたい。…ブラックタイガーの作戦の邪魔になっては逆効果だからな」
「助かります。あのバリヤーとこのネットがあれば、敵が百機だろうとそれ以上だろうと何とかできそうですよ」
 真田はにっこりと笑った。
「そう言ってくれると俺も少しは気が楽だよ。…それから、ヤマトのレーダーに代わるものとして、無人のパスファインダーを飛ばす。…敵はヤマトのレーダーを狙ってくるらしいんだが、修理してもまた狙われるだけのことだ。それより、複数の無人機を順次飛ばしたほうがやられにくいし、効率がいい。いま、工作室で六機製造中なんだが、間違って攻撃しないよう、隊員の皆に伝えておいてほしいんだ」
「わかりました。真田さん、敵の出方がわかっていて、これだけ準備しておけば、負けるわけがありませんね」
 真田は苦笑しながら立ち上がった。
「そうだな。…しかし、もし俺がドメルなら、何らかの方法でヤマトの波動砲を封じようとするだろう。それが一番心配なんだが」
 加藤は勢いよく立つと真田の手を握った。
「おれたちには緑がいるじゃないですか。もし本当に別の危機が迫っているなら、きっと緑が予知してくれますよ。真田さんは上官なんだから、あいつのことはよくご存じでしょう」
「ああ。とにかく、よろしく頼む。ネットにひっかからないよう、気をつけてくれ」
「わかってます」
 真田は加藤の手を強く握りかえして出ていった。加藤は閉じたドアを見ながら、ベッドに腰をおろして自分の手を見た。真田の手の暖かい感触は加藤に強い印象を残していた。端末の画面上ではアルミネットのグラフィックが回転を続けている。加藤はベッドにひっくりかえって考えた。
(義手だなんて全然思えなかったな。…ブラックタイガー隊員以外であんなに俺たちのことを考えてくれてるのは、ヤマトの中では真田さんと緑ぐらいのものだ。冷静ですごく頭も切れるし、真田さんこそ艦長代理に適任なんじゃないのか)
ぴよ
2001年10月28日(日) 22時52分10秒 公開
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■作者からのメッセージ
挿絵に根岸くんがいないのですが、構図的ないきがかり上、たまたまこうなってしまいました。根岸くんはスポーツ刈りで黒目がちの、背の高いハンサムという設定です。それじゃあ加藤くんと変わらないなあ、と自分でも思いますが、加藤くんよりは少し線が細い感じでしょうか。(こんな説明をするくらいなら、挿絵に描けばいいようなものですが・・・(汗))

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本当なら艦長や艦隊司令になっていてもおかしくないのにあえて縁の下の役割に徹する真田さん。かっこいいです。 メカニック ■2010年02月06日(土) 10時13分05秒
ネットを使って一網打尽作戦とは。う〜ん、はまりすぎだぁ。加藤君も根岸君もいつも最前線にいるんですよね。戦死しないで無事に帰還して欲しいです。 Alice ■2001年10月29日(月) 13時35分57秒
未来を予知するのもつらいですよね(汗)メカニックの設定がアイデア賞ものの楽しさです。 長田亀吉 ■2001年10月28日(日) 23時30分09秒
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