第6章 ドメル艦隊、そして /sect.2
 
 その二日後、ヤマトはバラン星のガミラス基地を撃滅した。ガミラスのバラン星基地司令官であるドメル将軍は、ヤマトを基地におびきよせて人工太陽を落下させ、基地もろともヤマトを葬ろうとしたが、回頭したヤマトに波動砲で人工太陽を撃破され、ただバラン基地のみを失う結果となったのである。面目を失ったドメルはガミラス本星に呼び戻され、ヤマトの周囲からはガミラス軍の影がいったん消滅した。病厚い沖田はバラン星の戦いで功績のあった古代を艦長代理に任命し、イスカンダルへの航海を急がせた。そして、ヤマトは一か月余りの間、順調に航海を続けていた。一方、真田は壊滅したガミラス基地から入手したデータを分析し、ガミラスが地球の放射能汚染度を逐一調査していたことをつかんだ。
 
「真田志郎、入ります」
 沖田は艦長室のベッドに横たわったまま、首を動かして真田を見た。
「どうした」
「バラン星基地から入手したデータの解析がすみました」
「ご苦労だった。それで、結果はどうかね」
「ガミラスが地球の大気の状況や放射能汚染度を細かく調査していたことがわかりました。冥王星基地が壊滅するまでの間、定期的にデータが送られていた痕跡があります。…おそらく、彼等は地球への移住を考えていたのではないでしょうか」
「そんなことだろうとは思っていたが…」
「先日捕獲したガミラス捕虜を調査した際、ガミラス人のDNAはわれわれ地球人のものよりも放射性物質による損傷に強く、修復も早いという結果が出ています。…自分たちには害の少ない放射性物質で地球を汚染し、われわれが滅亡した後に移住する計画ではないかと思われます」
「悪魔め…それで、ガミラスの位置がわかるようなデータはなかったのか」
「はい。その点に関する情報は故意に破壊されていました。おそらく、機密情報として処理されたのだと思います」
「当然の処置だろう。やむをえんな。…そういえば、マイクロ波動エンジンのテスト結果はどうだったのかね」
「成功です。一度に五光年までならワープ可能であることを確認しました」
 真田の声は明るかった。沖田はかすかに微笑んだ。
「そうか。良かった。あれがあれば、ずいぶん作戦が立てやすいだろう」
「はい。敵の位置がわかっていれば、奇襲に利用することができます。…それと、これは最後の手段ですが…」
「なんだね」
「あの機体で、敵戦艦や敵基地の真ん中にワープすれば、双方の対応する質量全部が一瞬のうちに全てエネルギーに変わり、波動砲など及びもつかないほどのすさまじい破壊をもたらします。…もっとも、周辺の時空に及ぼす影響が絶大なので、ヤマト本体が近くにいる時には使えませし、敵が移動中の場合にはワープ先のポイントの特定が困難です。また、当然ですが操縦者は確実に死亡します。…外部誘導型の自動操縦装置をとりつければ別ですが」
 沖田は真田の顔を見たままじっと黙っていたが、やがて口を開いた。
「きみには、もう二度も特攻に行ってもらった。私はそのたびに後悔していたよ。きみのような優秀な人材をなぜ死地に赴かせたのか、とね」
「艦長…」
「私はこれまで非情な指揮官たろうとして、あえて部下を見殺しにするような行動もとってきた。しかし、どうやらそれは間違っていたのではないかと思うようになったよ。危機を乗り切る源は生きようとする強い意思だ。そうは思わんかね。…あの機体を神風特攻機として使うのは許されないことだ。私はそのような命令をするつもりはないし、ましてきみを特攻に行かせる気もない。できるだけ早く、自動操縦装置を開発して搭載しておいてくれたまえ」
「わかりました」
「私は艦長代理に古代を任命したが、あれはまだ若い。きみがしっかり古代を補佐して、ヤマトを無事に地球へ送り届けてくれ。…頼む」
 そう言うと沖田はベッドから手を伸ばした。真田は両手でしっかりと沖田の手を握り、敬礼して艦長室を出た。
 
 真田が工作室に戻ると、待ち兼ねていたように山下と緑が駆け寄ってきた。緑は真剣な表情で真田を見上げている。山下の表情もこわばっていた。
「どうした、山下」
「技師長、緑がまた映像を見ました。今度のは深刻です」
 緑は両手を胸の前で握りしめている。真田は緑の肩に手をかけた。
「安心しろ、緑。事前に映像を見ることができたということは、その危機を回避できるということだ。心配することはない。…それで、何を見たんだ」
「ガミラスの大艦隊です。それが、ヤマトに猛攻をかけていて…コンソールを使わせていただいていいですか」
「ああ」
 緑はコンソールに駆け寄ると、ディスプレイにヤマトのモデルを出した。
「ここと、ここに敵艦載機の大集団がいて、ヤマトの両舷にミサイルの波状攻撃をかけていました。沢山のミサイルが一斉に両舷に着弾して、大きな被害が…。レーダーも破壊されていて、ブラックタイガーの姿はありませんでした。…そして、何もない空間から、つぎつぎに敵艦載機が現れていました。敵の艦載機は百機以上いたように思います」
 真田はつぶやいた。
「小ワープ機能のある艦載機を敵も開発しているということか…」
 緑がはっとして振り向く。真田は気を取り直して尋ねた。
「周囲の星の状況などで覚えていることはないか」
「…オレンジ色の星と、緑色の星が遠くに見えたように思います。暗黒星雲らしきものもありました」
「それだけわかれば場所は特定できるな。少なくともこの近くではない。対応策を立てるための時間はありそうだ」
 真田はじっと宙を見据えていたが、すぐに緑に視線を戻した。
「ありがとう。これだけいろいろな情報があれば、被害を最小限に食い止めることができると思う。おまえたちは安心していつもどおり任務を果たしていてくれ」
 緑は立ち上がって敬礼した。傍らに立っていた山下が心配そうに言う。
「技師長、レーダーの補修用パーツを作っておいたほうがいいのでは」
「そうだな。装甲板やパルスレーザーの補修パーツも多めに作っておいたほうがいいかもしれん。…緑、くわしい被害状況はわかるか」
「はい。…思い出せる限り、再現してみます」
 その時、スピーカーから相原の声が響いた。
「各班のリーダーは至急第一艦橋に集合せよ。繰り返す。各班のリーダーは至急第一艦橋に集合せよ」
「呼び出しだ。すまんが、後を頼む。…ついでにこの件を艦長に報告してくるよ」
 そう言うと真田は駆け出していった。


ぴよ
2001年10月25日(木) 00時35分21秒 公開
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■作者からのメッセージ
いよいよ、七色星団の決戦が近づいてきましたが、実は、中学の頃、緑に予知能力がある、という設定を最初に作った動機の一つは、七色星団の決戦の後、宇宙に流れるあの大量の棺桶をなんとかしたい、という素朴なものでした。
・・というわけで、この先、一部にTVとはいささか異なる展開が生じるかもしれませんが(というか、既に前半でもやってしまっていますが)、なにとぞご容赦くださいますよう、ひらにお願い申し上げます。

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やっぱり沖田艦長も、古代君の艦長代理には一抹の不安があったのね。私も同感であります。 Alice ■2001年10月26日(金) 00時17分41秒
科学設定も本格的で楽しいですね。今後に期待!! 長田亀吉 ■2001年10月25日(木) 21時59分31秒
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