第5章 バラン星をめざして /sect.4
 
 試作機はヤマトの艦載機発進口から着艦した。続いてシームレス機も飛び込む。…発進口が閉まるよりも早く、ヘルメットをつけた大勢の乗組員が押し寄せ、試作機をとりかこんだ。ほとんどの者は技術班の隊員服を着ている。格納庫の警告灯がグリーンに変わった。そこに、車椅子を押した雪がやってきた。技師たちが不安げに顔を見合わせる中、雪は試作機の真横に車椅子をつけた。試作機のハッチが開く。操縦席から立ち上がった吉川と古代は真田を抱え降ろそうとしていた。その真田の姿を見て、技師の間から悲鳴のような声が上がった。
「技師長!」
「腕を…腕を切断なさったんですか…!」
「ああっ…脚まで…!」
 真田は古代に脇を、吉川に大腿部を抱えられ、ちょうど宙に浮いた状態だったが、技師たちの声を聞くと笑顔を作って言った。
「大丈夫だ、みんな。俺の手足は以前から全部機械なんだ。だから切断してもどうということはない。みんなにまた新しいのを作ってもらえばいいよ。心配させてすまなかったな」
 真田の言葉に、その場にいた乗組員はみな一様にショックを受けていた。いつも陣頭に立って補修の指揮をとっていた真田の手足が、まさか義手義足であるとは、誰も想像だにしていなかったのである。
「さあ、真田さん」
 古代は真田を車椅子にそっと下ろした。雪が古代に向かってにっこりと笑う。
「古代くん、無事でよかったわ。さっき通信をもらった時はほんとにうれしかった」
「ああ。心配かけたね」
 嬉しそうに話す若い二人を見て、真田は急に振り返った。…シームレス機のハッチはいまちょうど開いたところだった。
 緑はシームレス機の端に手をかけ、後ろ向きになると機体に刻まれたラッタルを伝わって降りようとした。その時、背後から何者かが力強い手で緑の体を支え、ふわりと床に下ろした。驚いて振り返った緑に、根岸は爽やかに笑いかけた。
「根岸さん…」
「お疲れさん。…真田さんを無事に助け出せてよかったな」
 根岸はそう言うと、ほかの者に聞こえないような声でささやいた。
「艦長命令違反はおれも同じだ。みんなで行けば査問なんか怖くないからな。心配するんじゃないぞ」
 緑は何も言えなくなって根岸を見上げた。宇宙戦士訓練学校で選択過程に進むまでの二年間、根岸は緑と同じクラスだった。背が高く敏捷で、男らしい根岸は、クラスの誰からも頼りにされていた。もちろん緑も同じである。…体力の限界を試される過酷なサバイバル訓練の時など、どれほど助けてもらったかわからない。緑が第三ドックで真田に出会っていなければ、あるいは根岸に対して好意以上の気持ちを持つようになっていたかもしれなかった。緑は黙ってこっくりとうなずいた。そこに、古代がやってきた。
「緑、真田さんの指示だ。おれと真田さんが艦長室に報告に行っている間、第一艦橋で吉川と一緒に待っていてくれ。途中まではおれたちが一緒に行く」
「古代、発進口を開けたのは俺だ。処分の話ならおれも行くぜ」
 その言葉に、古代はじっと根岸を見た。
「…いや。真田さんが艦長に説明して命令違反の件はなんとかすると言ってる。ここはとりあえず任せたらどうだ」
 根岸は人垣の向こうにいる真田を見た。…真田は沖田の命令で来たと思われる二人の警備兵を説得しているところだった。警備兵は真田に何事かをいいながらちらちらと緑のほうを見ている。しかし、真田が語気を強めて何かを言うと、さっと敬礼した後立ち去った。その様子を見ていた古代はにっこり笑った。
「な。真田さんに任せれば大丈夫だよ。さあ、緑。行こう」
「はい」
 古代に促されて、緑は真田に駆け寄った。吉川が真田の車椅子を押し、緑はそのななめ後ろから、真田の様子を気遣いながらついていく。根岸はシームレス機の横に立ったまま、格納庫を出ていく四人をじっと見送っていた。
(緑…おまえがどうして技術班を志望したのか、やっとわかったよ…)
 
 艦長室で真田と古代から宇宙要塞の爆破についての報告を聞いていた沖田は、報告が終わると帽子のつばを引き下げて言った。
「二人とも、本当にご苦労だった。…それにしても、工場長の手足が機械だとは知らなかった。この先の任務に、支障はないのかね」
「はい。設計図と材料はありますので、すぐに代わりの義手義足を作れます」
「そうか。それは良かった」
「艦長」
 真田はそう言うと顔を上げた。
「実は、ご報告が遅れていたことがあります。…ヤマトの艦載機にワープ性能を持たせてはどうかと思い、超小型の波動エンジンを搭載した艦載機の開発を進めておりました。それで、その試作一号機を先日完成させ、テスト飛行の準備をしていたのですが、今回の要塞の処理に当たって、急造した防磁フィールド発生機の据え付けに最も適した機体がその試作機だったため、試作機への据え付けを指示したうえ、完成次第、要塞に届けるようにと技術班員に命令しておりました」
「………」
「自分たちが要塞への往復に使用したシームレス機は与圧が不可能な不完全なものでした。そのため、部下にそのような指示を出したうえで出撃したのですが、部下が私の命令を守ろうとして、ワープ待機中にその試作機で出撃してしまいました。また、試作機の調整が間に合わず、通信機能に問題があったため、ヤマトからの通信をうまく傍受することができなかったようです。この点も私の落ち度です。そもそも私が出撃する前に部下にそのような指示を出した事実を艦長にご報告しておくべきだったのですが、出撃のどさくさで失念していた点も反省しております。まことに申し訳ありませんでした。ただ、試作機で出撃した部下二名には何の落ち度もなく、ただ私の命令に従っただけですので、この件に関しては私が全責任をとるべきだと考えております」
 真田の隣で聞いていた古代は、真田の言葉に慌て出した。
「なんだって、真田さん。冗談じゃないぜ。真田さんがそんな…」
「黙ってろ、古代」
 真田は厳しい声で言った。それを見ていた沖田の目がきらりと光った。
「真田くん。きみの部下二人は、私の総員ワープ準備の命令を聞いてから飛び出した。違うかね」
 沖田の語気の鋭さに真田はたじろいだ。
「は。…」
「艦長命令違反がどういう罪に当たるか、きみも、その二人も、知らないわけがあるまい。きみだって、その二人がただ忠実にきみの命令を守って出撃したとは思っていないんじゃないのか」
 真田は車椅子から身を乗り出して叫んでいた。
「艦長!」
「二人とも、銃殺刑になる覚悟をしてから飛び出したはずだ。…処分は私が言い渡す。二人をここに連れてきたまえ」
「しかし、艦長」
「命令だ。二人の名前は。いまはどこにいる。…私は警備兵に操縦者を連れてくるように言ったはずだぞ」
 真田の顔は蒼白だった。ようやく絞り出した声は押し殺したように低かった。
「…藤井緑と吉川一郎です。この下の第一艦橋で待機させています」
「よし。古代、すぐ連れてきたまえ」
「か、艦長」
 抗議の声を上げようとする古代に沖田は語気強く言った。
「古代。二度は言わないぞ」
 古代はやむなく出ていき、すぐに緑と吉川を連れて現れた。吉川は傍目にもそれとわかるほど青ざめ、こわばった表情で歩いてくる。一方、緑は目を伏せてはいたものの、静かな面持ちだった。二人は沖田の前で直立不動の姿勢をとった。沖田は二人をじっと眺めていたが、やがて口を開いた。
「なぜワープ待機中に出撃した。…藤井」
 緑は視線を上げ、まっすぐに沖田を見た。
「技師長と古代さんがまだ敵要塞におられました。ヤマトがワープすれば、お二人は取り残されます。それでワープ機能のある試作機で出撃しました」
「真田くんは、きみたちは自分の命令に従って出撃しただけだから、何の責任もないと言っているが」
 沖田はポケットに手を入れ、歩きながら言った。緑は正面を見たまま、しばらく沈黙していたが、一瞬目を閉じた後、きっぱりと答えた。
「いいえ。技師長は出撃の前、私に、何があっても試作機は使うなとおっしゃっていました。…今回のことは全て私の独断です」
「緑!」
 真田は思わず叫んだが、沖田の厳しい視線を受けて口をつぐんだ。沖田は緑の真正面に立った。
「全艦ワープ準備の命令は私が出した。そのことは知っているな」
「はい」
「では、あえて私の命令を無視したということか」
「…そうです」
「何か申し開きしたいことはあるか」
「吉川さんは出ていく私を止めようとして巻き込まれただけです。技師長と吉川さんには何の罪もありません。どのようなご処分でもお受けいたします」
「そうか。わかった」
 沖田の言葉を聞いた真田は、もうそれ以上黙っていることができなかった。
「艦長!このような事態を招いた責任は全て私にあります。それに、この二人が来てくれなければ私と古代はヤマトに帰り着く前に窒息死していました。どうか処罰は私限りにして下さい」
「技師長!」
 緑と吉川は思わず直立の姿勢を崩して真田を振り返った。その時、緑は急に顔色を変えて真田に駆け寄り、宇宙服の胸の放射能検知器を確認すると叫んだ。
「艦長、技師長の被曝量が閾値をはるかに越えています。一刻も早く中和剤と酵素を注射しないと危険です!」
「要塞を爆破した時にやられたんだ!艦長、真田さんをすぐ医務室に連れていきます」
 古代はそう言うと車椅子を押そうと手をかけた。真田は古代の顔を見た。
「待て、古代。…この二人の処分が決まるまでおれはここを離れるつもりはない。艦長、どうかご判断を」
 沖田は後ろを向くとインターコムに手を伸ばした。
「佐渡先生、放射能過被曝の治療セットを持ってすぐ艦長室へ」
 そう言うと沖田は向き直った。
「藤井。軍規が何のためにあるか、わかるか。…各自が勝手な行動をとっていては敵に勝てないからだ。君が自分の命に代えても工場長を助けようとしたことは分かっている。しかし、軍規は軍規だ。あえて命令違反を犯した罪は重いぞ」
 真田の傍らにかがんでいた緑は立ち上がって姿勢を正した。
「はい」
「では処分を言い渡す。…藤井緑、本日より三日間の謹慎処分を命ずる。場所は医務室だ。真田工場長付の当番兵とする」
「…!」
「吉川一郎、きみは二日間の謹慎だ。工作室で真田くんの義手義足を作るように」
「はい」
「ヤマトは今、一人のクルーでも余分に失うわけにはいかない。今回は真田くんに免じてこの程度の軽い処分で済ませたが、今度同じようなことがあったらこうはいかんぞ。無謀な行為はくれぐれも慎むように。いいな。…それでは各自の部署に戻りたまえ。真田くんは佐渡先生がくるまでここに残るように」
 古代たちが出ていき、真田と二人になると、沖田は椅子に腰をおろした。そして、艦長室の展望窓から外を見た。遠くに宇宙要塞が見える。それは残骸になった今も赤く不吉に輝いていた。沖田はつぶやくように言った。
「…やはり君が言った通り最初からワープで飛び越すべきだったな」
「は。…」
「今回二人の偵察員を死なせたのは私の責任だ。…それに、藤井と吉川が飛び出してくれなかったら、私はきみと古代というかけがえのない部下を二人とも失うところだった。許してくれ」
 真田は驚いて沖田を見たが、沖田の顔は帽子で隠れ、感情を読み取ることはできなかった。
「命令に従う部下を得るのはたやすいことだ。しかし、上官のために進んで命を捨てようとする部下は得ようとして得られるものではない。いい部下を持ったな」
「艦長…」
 その時、艦長室のドアがノックされ、佐渡が入ってきた。沖田は振り向いた。
「佐渡先生、真田くんがかなり被曝しているらしい。早く中和剤を射ってやってくれ」
 沖田の言葉に、佐渡はてきぱきと真田の宇宙服を脱がせた。肩口の静脈を捜し出し、注射針を沈める。佐渡は床の宇宙服の放射能検知器の数値を見ると眉をひそめてDNA修復酵素のアンプルも取り出した。
「工場長、あんたは艦外に出すぎだと以前から言っといたじゃろう。DNA検査をしてみんとわからんが、こんな無茶をしていると地球に戻っても子供をつくれんようになるよ」
 真田は笑った。
「先生、おれは結婚なんかできない体だっていうことはご存じでしょう」
「いい若い男が何を言っとる。腕と脚以外はどうもなっとらんじゃないか。結婚するのになーんも問題なんかありゃせんわ。わしが太鼓判を押しちゃる」
 佐渡はそう言うとわざと乱暴に注射した。真田はわずかに顔をしかめた。
「しかし、相手にも選択の自由がありますからね。手足が全部機械の男なんて、おれが女性なら嫌ですよ」
「女っちゅうのは、そういうもんじゃないんじゃ。なあ艦長」
「ん。…」
 突然話を振られた沖田はどう答えていいかわからない様子だった。佐渡はそれにはおかまいなしに持ってきた手術用の衣服を取り出し、真田に着せかけると、床の宇宙服を車椅子の下に押し込んだ。
「さあ、これでよしと。被曝量が多いから、最低三日は入院してもらうよ。雪は古代につきっきりで世話やいとるから、あんたはアナライザーにでも世話させるわ」
「佐渡先生。真田くんの世話は技術班の藤井にやらせる。さっき私が命令した」
「そうですか。藤井が当番兵と来ちゃあ、またアナライザーが大喜びじゃね」
 佐渡はそう言うとすました顔で車椅子を押して出ていこうとした。その時、沖田が声をかけた。
「真田くん」
 真田は振り返った。沖田は窓の外に目を向けたままだった。
「…きみも、男としていろいろ辛いことがあるだろうが、これからもヤマトを預かる技師長としての立場を忘れず、頑張ってくれたまえ」
「はい」
 エレベーターのドアが開き、佐渡は車椅子を中に押し入れた。動いていくエレベーターの中で、真田はじっと目を閉じて沖田の言葉をかみしめていた。
(艦長は、おれの気持ちを見抜いて釘を刺したんだ…)
ぴよ
2001年10月02日(火) 00時23分09秒 公開
■この作品の著作権はぴよさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いつもお読みいただいてありがとうございます。
艦長命令違反、法定刑はきついですが、ご指摘のとおり常習犯の古代くんはビンタくらいですんでますし、まあ、藪が冷凍刑なわけですから、この程度が量刑相場かなということで。今回のマッチポンプ的処分の結末は、次回5−5でお送りします。どうぞよろしく・・・。

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泣けました。真田さんの想い、緑の想い、吉川、根岸の爽やかさ潔さ・・・。そして、沖田艦長の大きさ。ヤマトで涙したのは中学の時の”さらば”以来久々です。ぴよさんに敬礼! なんぶ ■2001年10月18日(木) 16時47分11秒
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