第5章 バラン星をめざして /sect.3
 
 古代は宇宙要塞のマグネトロンウエーブ発射口を通ってようやく出口にたどり着いた。古代は真田を背負っていた。…真田は肘と膝から先の手足を失っていた。宇宙要塞の核コンピュータ室にたどりついた二人は、爆弾の設置作業中に自動防御システムの激しい攻撃にさらされ、古代は胸部を強打されて気を失い、真田はコンピュータに四肢をからめとられた。そして、真田は自分の手足を切断することでようやく古代とともに逃れてきたのである。先端を失った真田の宇宙服の袖口と裾は、応急補修用の粘着テープでべったりと閉じられていた。
「やっと出口だ」
 古代が安堵の声を出した。真田は古代に言った。
「古代、俺を下ろしてくれ」
「シームレス機に乗るんじゃないのか」
「その前に、ちょっと下ろせ。壁際だ」
 古代は真田を出口の横の壁際に座らせた。真田は古代の顔を見た。
「古代、お前はシームレス機でここを離れろ。俺は…残る」
 古代は驚愕した。
「残るって、そんな…それで一体あんたは、どうしようっていうんだ」
「よく聞け、古代。核コンピュータに残してきた俺の手足、あれはおれの切り札だ。あの中には爆弾が仕込んである。起爆装置はこの腕の中だ。俺がここでスイッチを押せば爆弾が爆発し、宇宙要塞はガラクタに変わる。しかし、俺がこれ以上離れては、爆発は起こらん」
「真田さん…」
「早とちりするな、古代。俺だって何も死に急ぐわけじゃない。…おまえも見たとおり、この要塞には、外からの攻撃に対する防御シャッターが設けられている。ひょっとしたらそれは、内部からの爆発の場合にも作動するかも知れん。それが頼みの綱だ。だが、君は危ない橋を渡ることはない。遠くへ退き、爆破を見届けてくれ。…その気があったら、探しに来てくれ。もっとも、君が見つけられるのは俺の骨だけかも知れないがな」
「真田さん、おれにはもう、何も言えない」
 古代は唇をかむと真田を背負い直し、発射口の外の窪みに下ろした。真田の右腕の中のスイッチを外側からさぐって、ケーブルを探し、それを宇宙服のバックパックのストラップに引っ掛けて、真田が残った上腕を引けばスイッチを入れられるようにする。しかし、その作業のためにかなりの酸素が真田の宇宙服からもれた。真田は点火準備が終わったのを確認するとかすかに微笑んで言った。
「気をつけて行け」
「さよならは言わないよ」
「おれもだ」
 古代は喉がつまるような思いを押し殺してシームレス機に乗った。
 
 第一艦橋の相原は額に汗を浮かべて振り向いた。試作機からの返答は全くない。ずっと目を閉じていた沖田は目を開き、時計を見ると言った。
「島、ワープだ」
 島の顔が引きつる。しかし、島は震える声で復唱した。
「はい。ワープします」
 雪が顔を覆った。その時、古代の声が艦橋に響いた。
「こちら古代。古代よりヤマトへ。ヤマト、聞こえますか」
 沖田の顔がぱっと明るくなった。通信機に顔を近づけて叫ぶ。
「こちらヤマト。こちらヤマト。沖田だ。どうしたんだ、古代」
「爆薬の設置完了。これより要塞を爆破します」
 その時、レーダーに爆発反応が現れた。…真田が起爆装置を作動させたのである。
「こちら古代。爆破成功。これより真田工場長の救助に向かいます」
 
 宇宙要塞の内部は爆発により完全に破壊され、要塞の表面に多数設けられていたマグネトロンウエーブ発射口から紅蓮の炎が吹き出している。古代はその火勢のすさまじさに半ば絶望しながら真田の名を呼び続けた。そして、古代があきらめかけた時、真田の声が古代のヘルメットに届いた。シームレス機を出て要塞に向かった古代は、炎の吹き出す発射口の横に、煤で真っ黒になった真田を発見した。
「真田さん!」
「古代!」
 真田は古代の姿を認めるとほほえんだ。すすだらけのフェイスプレートの隙間から白い歯がのぞく。古代は真田を抱えてシームレス機に戻ろうとした。その時、二人は接近してくる銀色に輝く機体を見た。
「技師長!」
 緑の声がヘルメットに響いた。…緑は試作機を停止させると操縦席から飛び出し、まっすぐに二人の所へ向かってくる。真田は言葉を失っていた。緑はしなやかに体をひねって停止すると、飛びつくように真田の酸素計を見た。数値を確認すると古代の酸素計も見る。驚く古代にかまわず、緑は言った。
「お二人とも、空気もれでエアー残量がほとんどゼロです。すぐに試作機に乗って下さい。シームレス機は私が操縦してヤマトに戻します。吉川さん、お願い」
 古代は慌てて自分の宇宙服の酸素計を見た。確かに酸素の残量を示す針はゼロを指している。テープで補修した胸の負傷部位からエアーがもれていたのである。緑は真田の体に腕を回して試作機に乗せようとしていた。試作機から飛んできた吉川も手伝う。緑は三人を試作機に乗せると外側からハッチを閉めた。シューッという音とともにコクピットに酸素が満ちる。ヘルメットのフェイスプレートを上げると、新鮮な空気が肺に流れ込んだ。その時、古代はようやく、自分が酸素欠乏症になりかかっていたことに気付いた。前部座席では吉川が真田のヘルメットを外した後、必死に袖口のテープをはがそうとしていた。
「技師長、止血はしてあるんですか。まだならすぐやります。待ってて下さい。…どうしてこんなひどい負傷を…」
 吉川は涙声だった。真田は優しく言った。
「おれの手足のことなら心配するな、吉川。もともと四本とも作り物なんだよ…機械のな。ビスを外して要塞の中に残してきただけだ。…怪我してるのはむしろ古代の方だ。たぶん肋骨が折れている」
 吉川は驚きに目を見開いた。テープを剥がした宇宙服の袖口からは、引きちぎられたコードがのぞいている。吉川は顔を上げて真田を見た。真田は吉川に向かって微笑むと首をひねって後部座席の古代を見た。古代は真田と目が合うと、緊張から開放され、笑いだした。
「そうですね。ホッとしたら急に痛んできましたよ。…いてて」
「ああ」
 真田は前を向いた。シームレス機で待機している緑が見える。真田は真顔に戻ると吉川に言った。
「しかし、酸素は本当に危なかった。ありがとう。…おまえたちのおかげで助かったよ」
「いえ。…発進します」
 吉川は自分のヘルメットを外し、操縦棹を握った。親指を立てて緑にサインを送る。シームレス機が発進し、吉川もエンジン圧力を上げた。真田はマイクロ波動エンジンの立てる音にじっと耳をすませながら計器を見ていたが、吉川が試作機を発進させると静かに言った。
「いい音だ。…この分なら小ワープもできそうだな」
 操縦棹を握る吉川の表情は固かった。レーダーにはシームレス機とヤマトが映っている。シームレス機が次第にヤマトに近づいていくのを見ているのは耐えがたかった。
「すみません、技師長。勝手に試作機を持ち出したこと…」
 その暗い声に、真田はいぶかしげに吉川を見た。叱責を恐れている表情ではない。真田は励ますように言った。
「いや、いいんだ。そのおかげで俺たち二人はこうして呼吸していられるんだからな。…それに発進許可はあったんだろう。試作機のことは後で俺が艦長に報告しておくよ。気にすることはない」
 吉川は歯をくいしばった。緑の透明なほほえみが目の前によみがえる。吉川は思わず叫んでいた。
「技師長、緑だけでも助けられないでしょうか。艦長命令違反の無許可発進なんです。おそらく、戻りしだい拘束されて軍法会議に…」
 さっと真田の顔色が変わった。しかし、真田が口を開くより早く、古代が後部座席から身を乗り出していた。
「艦長命令違反?やばいぜ、吉川!それって、確か銃…」
「バカ、よさんか古代」
 真田はそれ以上言わせないようにすばやく遮った。操縦を続ける吉川の額には一面に汗が浮かんでいる。真田はそれを見ると、落ち着いた声で言った。
「心配することはない。俺が何とかする。…まず、俺たちより先にヤマトに着艦しないよう緑に連絡するんだ。ヤマトに聞かれるとまずいから、発光信号を使うんだぞ。その後で発進時の状況をできるだけ詳しく教えてくれ。それから、古代は帰投したらすぐに俺を艦長のところへ連れていってくれ。頼む」
 真田の言葉を聞いて吉川の緊張は一気に解けた。それは、後部座席にいる古代にもわかるほどはっきりしたものだった。その様子を見ていた古代は宇宙要塞の中でのことを思い出した。…真田はえんえんと続く迷路のような通路を歩きながら、それが宇宙要塞の回路でもあることを見抜き、そのつながりから推理して核コンピュータへの正しい道筋を発見したのである。古代が道に迷ったと思って不安にかられていた時、真田は言った。「待て、もう少しで正しい道に出ると思う。おれに任せておけ」と。…その時のたとえようもない安心感を思い出すと、技術班の班員たちが真田に絶大な尊敬と信頼を寄せている理由がよくわかった。
(真田さんがいると、どんなピンチでもきっと何とかなるという気がするんだよな。…艦長がすぐに真田さんを特攻に出したがるのも、それが理由なんだろうか)
 いっぽう、ほっとした表情で通信装置を操作している吉川を見ながら、真田は自分の考えに沈んでいった。
(銃殺だと。…そんなことをさせるものか。二人とも俺の大切な部下だぞ)
 真田は宇宙空間に目を転じた。シームレス機のエンジンが発するオレンジ色の光が次第に近づいてくる。闇の中に浮かび上がる小さな光の中に、真田はいつしか緑の姿を重ねていた。美しいひとみを涙でいっぱいにして、設計室を出ようとする真田をみつめていた緑。わきめもふらず、試作機からまっすぐ真田の胸に飛び込んできた緑。…真田は自分を試作機に乗せた後、ハッチを閉めようとしていた時の緑の表情を思い出し、きつく目を閉じた。…緑の視線はひたすら真田だけに向けられていた。蒼ざめた白い顔には淋しげな微笑があり、大きな漆黒の瞳は何かを訴えているようだった。しかし、緑は唇を固く結んだまま試作機のハッチを下ろし、そのあと静かに目を閉じてひとりシームレス機に向かったのである。
(ヤマトに戻れば自分がどういうことになるかわかっていて…そうなのか、緑)
 真田は目を開いた。通信を終えた吉川が真田の顔を見ている。
「それじゃ、発進時の状況を話してくれ。こまかいことも細大もらさず頼む」


 
ぴよ
2001年09月30日(日) 20時17分39秒 公開
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艦長命令違反なら、古代だってやっている!がんばれ緑。イラストの真田さんの表情、いいですね。 Alice ■2001年10月01日(月) 13時27分09秒
吉川がいい味ですね^^TV本編の再現も簡単なようで難しいと思います。お見事! 長田亀吉 ■2001年09月30日(日) 23時18分14秒
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