第2章 戦いの中で /sect.3

真田たち攻撃部隊が発進してから、三時間が過ぎた。緑たちの手がけた反重力装置とオートバランサーの修理は完了し、ヤマトは艦体を正常な姿勢に戻して浮上した。…しかし、それを見たガミラス冥王星基地司令官シュルツは、潜水艇を発進させてヤマトを攻撃した。そして、潜水艇が発射したミサイルのうち一発がヤマトの左舷を大破させ、ヤマトの生命維持システムに損傷を与えた。
 
 緑と吉川は他の班の補修現場の応援に行こうと艦内通路を走っていた。が、突然激しい衝撃とともに艦体が横に傾き、二人は隔壁に叩きつけられた。十メートルほど向こうの隔壁が破れ、爆風とともに真っ赤な炎が吹き出している。隔壁に背中を打ちつけて倒れていた緑の頬を熱風がかすめた。
「緑!大丈夫か!」
 吉川は上体を起こすと緑に向かって叫んだ。緑はうなずくと立ち上がり、炎との間に人影がないのを確かめた後、壁に埋め込まれた非常用レバーを引いた。通路に二重のシャッターが下りる。その時、ヤマトが再び下降を開始した。緑は唇をかんで天井を見上げた後、振り向いた。
「吉川さん、第一艦橋の技師長の席に行きましょう」
「え?」
「今、爆発があった場所には生命維持システムがある筈です。生命維持システムの稼働状況を調べるには艦橋でないと」
 そう言うと緑はもう走りだしていた。休みなく重労働を続けていた疲れも見せず、軽やかに遠ざかっていく。吉川は慌ててその後を追った。
 緑は第一艦橋に駆け込み、右舷側にある真田の席に座った。レーダー席の森が驚いた表情で見つめている。緑は一瞬目を閉じ、息を吸い込んだ後、素早くキーボードを操作してデータを呼び出した。真田のシートについているというだけで、胸がぎゅっと痛い。
しかし、表示されたデータを見たとたん、その感激は吹き飛んだ。緑はコバンザメの在庫とそのサイズを調べ、さらに青ざめると振り返った。
「艦長!」
 沖田が顔を動かした。第一艦橋のクルー全員が振り返る。吉川は艦橋の入口に立ったまま、じっと緑を見ていた。緑は勇気を出して言葉を続けた。
「酸素供給機が損傷しました。現在、一次回路からの酸素の供給は完全にストップしています。損傷部位の装甲板の亀裂は広範囲にわたっており、システムの主要部分に海水が侵入していて、浮上して応急の気密措置を施さない限り、酸素供給機の補修は不可能です。予備の二次回路からの酸素供給量も正常時の二〇パーセントに下がっており、二酸化炭素の回収量も正常時の四〇パーセント程度まで低下しています」
 沖田は艦長席の計器に目をやった。
「森、現在の酸素分圧と二酸化炭素濃度から見て、あと何時間なら生存が可能か」
 森雪は慌てて端末を叩いた。
「艦体の破損による流出量と、火災が鎮火するまでの消費量を考慮しますと、あと九時間三〇分が精一杯です」
 沖田は緑を見た。
「浮上して修理を開始した後、何時間で酸素供給機を復旧できる。…正確な数字を頼む」
 緑は酸素供給機の破損箇所を確認しながら必死に数値を入力した。額に汗がにじむ。計算の結果出てきたいくつかの数字のどれが正しいのか判断がつかない。その時、突然、コンソールの前のランプが点滅し、無線のノイズに混じって張りのある声が聞こえた。『…こちら特別攻撃隊、真田。目標の半島に上陸しました』
 緑は顔を上げた。真田が出撃していった時の笑顔が浮かぶ。もう一度ディスプレイの数字を見ると、自分でも驚くほどはっきりとした声が出た。
「総力態勢でかかれば、一次回路の応急処理は一時間一五分で実行可能です。それで約五〇%の機能が回復します。完全復旧にはそのあと一時間ほどかかる見込みです」
 沖田は軽くうなずいた。
「よし。…真田くん、ヤマトの酸素供給機がやられた。八時間以内に敵の光線砲を破壊できなければ、ヤマトは浮上して敵基地に捨て身の総攻撃をかける」
『了解。これより敵光線砲の排気筒を目標に探索します』
 無線のノイズは途切れた。沖田は艦内オール回線のスイッチを押した。
「総員に告げる。ヤマトの酸素供給機が損傷した。これより八時間の間、戦闘体制を解除する。補修作業中でない乗組員は可能な限り居住区に戻って横になり、酸素消費を抑制せよ。艦内への酸素供給は艦橋と居住区、レーダー室のみに限定し、酸素分圧も下げる。補修作業中の者及び持ち場を離れられない者は酸素ボンベを着用せよ。八時間経過後に総攻撃を開始する」
 緑は真田の席から立ち上がり、沖田に向かって敬礼すると艦橋の出口に向かったが、その表情は隠しようもないほどこわばっていた。
(八時間たったら総攻撃を開始するなんて…そんなことをしたら基地に潜入している技師長はどうなるの…!)
 
 緑は大工作室で山下に向かって必死に説明していた。一班C、Dの他の者たちも近くでそれを聞いている。
「Pブロックの亀裂は長さが一六メートルあり、変形しているために従来のコバンザメでは覆いきれません。ですから、四号と五号を切断して繋ぎあわせ、このような形状の蓋を作ります」
 設計用ディスプレイに円と楕円を斜めにつないだ形の図面が現れた。
「接合部のエッジはKS鋼で圧着して処理します。…リムは四号と五号の残りを利用すれば短時間で調整可能です。すぐにとりかかれば四時間程度で完成させられると思います。この作業の認可をお願いします」
 ディスプレイの図面を検討していた山下は傍らの緑を見た。緑は漆黒の瞳を大きく見開いて、訴えるように山下を見つめている。山下はその必死の表情に思わず視線をそらし、画面をもう一度見た。コバンザメの合成作業は相当困難なものになることが予想された。
「なかなかいい計画だと思うが、イレギュラーな作業だし、考えるよりも大変だぞ。メリットは何だ」
「コバンザメが使えないせいで、浮上しない限り酸素発生装置の補修ができません。しかし、浮上すれば敵ビーム砲にやられます。八時間後に敵基地を総攻撃することになったのは、酸素切れで浮上した場合、戦闘が避けられないからです。でも、八時間以内にコバンザメで酸素発生装置を補修することができれば、浮上の必要自体がなくなります。そうすれば…」
「海中で技師長たちの帰りを待つことができるわけだな。わかった。すぐにとりかかろう。俺から他の班にも応援を頼む」
 山下は笑って緑の肩を叩き、親指を立てた。緑はようやく微笑み、大きくうなずくと操作台に向かって走っていった。技師たちが持ち場につき、クレーンが動き始める。真剣に操作を続ける緑の心の中では、艦橋で聞いた真田の声が繰り返し響いていた。レーザーカッターの操縦レバーを握りしめて、緑は祈った。
(この事態は私たちが何とかします。どうか、どうかご無事でお戻り下さい)
 
 真田と古代、加藤、根本、杉山、アナライザーからなる特別攻撃隊は、ようやくガミラスの排気筒を発見した。入口に群がるゼリー状のスライムを排除して、斜め下に向かって延びた排気筒の内部を進んでいく。排気筒は直径五メートルほどで、金属でできており、表面はなめらかな光沢を放っていた。真田は慎重に歩きながら緑の言葉について考えていた。
(侵入の糸口は壁にあります、か。…確かにこのままどんどん進んでいっても、エネルギーコンバーターの餌食になるのが落ちだ。基地は岩盤の上に作ってある筈だが…)
 真田は背後を振り返って地表からの深度を目測し、手元のエネルギー消費度計を一瞥した。排気筒の壁に手をついてみると、かすかに振動が感じられる。急いで壁にヘルメットを押し当てると、空調設備の立てる音が聞こえた。真田はアナライザーを呼び止めた。先を行く古代が振り返る。真田は壁を指差した。
「アナライザー、ここを切断してみろ」
「リョウカイ」
 アナライザーはレーザーカッターで壁面を丸く切り抜いた。切り抜かれた壁面の向こうには人工の空間が広がっている。真田は古代たちに向かって言った。
「機関室のようだな。急げ、あと三時間しかないぞ。…さっき言ったように侵入者を排除するためのバリヤーが仕掛けられているかもしれん。充分注意して進むんだ。アナライザー、お前が先頭で行け」
 一行は切断部分をくぐって基地内部に侵入した。


ぴよ
2001年09月22日(土) 14時55分11秒 公開
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■作者からのメッセージ
第二章は地味な修理シーンが多くて、いまいち絵にしにくかったので、挿絵が少なくてすみません。実は、以前VIEWDECKに投稿していた「冥王星」は、この部分の挿絵だったんです。この後は、1つか2つおきには挿絵が入りますので、よろしくお願いします。

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さっそくイラストもセットしました。相変わらず読ませますね!!冥王星のエピソードは僕も大すきで(というか1のエピソードはどれもこれも好きなんですが=笑)、このころ技師班がそういうことをしてたのかあ、とか納得しながら読んでます。ヤマトの要は青い服の人たちかもしれませんね。航海班ももちろん要ですが。戦闘班は、普段は暇だと思うし(笑)真田が艦長代理にならなかったのは「忙しかったから」かもしれません(笑) 長田亀吉 ■2001年09月22日(土) 16時19分49秒
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